総理大臣杯の関東代表校を決めるアミノバイタルカップで、昨年度のインカレ王者である関東１部の東洋大学は、ラウンド16で関東２部の駒澤大学と対戦。スコアレスのまま延長戦までもつれ込む接戦を演じ、PK戦の末に勝利して出場権を掴み取った。

「苦しい展開になることは分かっていました。相手のロングボールに対して、空中戦で絶対に負けないこと、セカンドボールを回収すること、センターバックのカバーなど対応を考えてプレーしました」

　キャプテンであり、来季から柏レイソル入りが内定している左サイドバックの山之内佑成は、この言葉通り常にポジショニングや身体の向きなど細部を意識して最後までプレーしていた。

「味方に対しても、ボールに対しても、自分が間に合う距離感で守っていました」と、なるべく左CBとの距離を空けないこと、かつ同サイドや対角から飛んでくるボールを処理できるように、常に半身の姿勢を取って、弾くことも、セカンドを拾うこともできる状態を作る。いつものダイナミックな攻撃参加は少し影を潜めてしまったが、その分、守備の綻びを一切許さなかった。

「大事にしているのは、相手を見ながらサッカーをすることです」

　頭脳派サイドバックになったのは、東洋大に入ってからだった。JFAアカデミー福島U-18時代は左利きのCBで、入学後に左サイドバックにコンバートされた。

「上のレベルを考えた時に、サイズ（178センチ）を含めて、自分の守備範囲の広さを活かせるのはサイドバックだなと思いました。ただサイドを上下動するだけではなく、意図的にスペースを埋めたり、顔を出したりして、ビルドアップや守備のスライドなどを考えながらやると、サイドバックも楽しいと思いました」
 

　持ち前のフットボールインテリジェンスと身体能力、そして精度抜群の左足のキックをフル活用し、左サイドで輝きを生み出した山之内は、１年生から出番を掴み、２年生から不動のレギュラーとなった。昨年６月には早くも2026年シーズンからの柏加入の内定が発表され、順風満帆に成長を遂げてきた。

　今年はシーズン開幕前に行なった左足首の手術と、ハムストリングの怪我の影響で大きく出遅れてしまい、公式戦の復帰は５月31日の関東大学サッカーリーグ１部・第10節の明治大戦だった。それでも急ピッチで調子を上げ、６月12日の天皇杯２回戦の柏レイソル戦（三協フロンテア柏スタジアム）には、仕上がった状態で臨むことができた。

　内定先とのガチンコの勝負を、これからホームスタジアムとなる日立台でやることもあって、山之内はこの試合を誰よりも楽しみにしていた。その一方で頭の中は常に冷静だった。

「試合が始まったら、レイソルの出方を見ていました。レイソルは幅を使いながら攻めて来る。左サイドバックとして気をつけていたのは、レイソルのウイングバックに対するプレスはジャストで当てていかないと、自分の背後が空いて、そこをインサイドハーフや２トップに使われてしまう。だからこそ、寄せるタイミング、立ち位置、身体の向きはかなり意識をして、センターバックとの距離を少し開けてもいいから、開き気味でプレーすることを意識しました」

【４－２－３－１】の東洋大に対し、柏は【３－３－２－２】。形が違うからこそ、そのズレを自分のところで生み出さないように細心の注意を払った。

　さらに、練習参加などで頭に入っていたリカルド・ロドリゲス監督のサッカーを体現するのではなく、封じる側としての頭脳をフル稼働させた結果、山之内は延長戦を含む120分間、安定したプレーを見せた。

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