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鬼木達監督の川崎退任までの知られざる8年。家族との涙の食事やタイで連絡を受けた父との別れ【特別インタビュー】

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2024年12月10日

家族に支えられた8年

率直な想いを語ってくれた鬼木監督。監督として過ごした8年は様々な出来事があった。写真:滝川敏之

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 2017年のクラブ悲願のリーグ制覇など川崎に数々のタイトルをもたらしてきた鬼木達監督が今季限りで退任し、ひとつの挑戦を終えた。指揮8年で7つのタイトル獲得という偉業を成し遂げた指揮官の知られざる歩みとは。ここまでの道のりを振り返る川崎でのラストインタビューである(全4回/1回)。

――◆――◆――

 20時から21時頃に家に帰り、早朝7、8時頃にはすでにクラブハウスにいる。

 家に帰っても映像分析などを進め、ソファで寝落ちすることも珍しくない。睡眠時間は平均4、5時間。鬼木監督にとってこの8年はまさにサッカー漬けで、毎日のように1日の半分以上をクラブハウスで過ごしてきた。

 それはフロンターレが好きだから。もっと魅力的なサッカーをできる、選手たちはもっと成長できると信じていたから。苦しさよりも楽しさが優っていた。そんな“オニさん”を誰もが慕っていた。その背中を指標としていた。

 選手や育成年代の指導者時代などを含めれば川崎歴は26年だ。通いなれた道。毎日のように見てきた風景。その日常が変わってしまうことに今は想像が追いつかないのだろう。

 もっとも喜び、涙、悔しさ、様々な感情が沁み込んだその道が、遂にフィナーレへと行き着いたのだ。2024年12月8日の福岡戦をもって、鬼木監督の川崎での挑戦に、ひとまずピリオドが打たれたのである。

 今季限りでの退任が発表されたのは10月16日。ルヴァンカップ・準決勝の新潟との第2戦に敗れ、2024年シーズンの無冠が決まった3日後であった。

 時計の針を少し戻せば、新潟との第1戦の前日、10月8日にはクラブとの話し合いが設けられ、今季限りで退任する方向性が決まっていた。だからこそ、新潟との準決勝には「なんとしても勝って決勝へ行ってタイトルを獲りたかった」と振り返る。

 しかし、アウェーでの第1戦を1-4で落とすと、ホームでの第2戦も0-2の敗戦。願いが叶うことはなかった。

 敵地で苦しい敗戦を突きつけられた翌日、家に帰ると、誰よりも早く妻の麗子さんに報告したという。

「監督を辞めることになった」

 長年、その戦う姿を見守ってきた麗子さんは驚く様子はなかったという。

「僕の決断を妻は反対したことはないですね。監督をやる時も伝えてはいたんです。『監督をやるということは川崎をいつか離れることだから覚悟してね』と。その時は『分かりました』と答えてくれていました。ここ1、2年は結果が出ず苦しんでいるんだろうと近くで察していたはずですし、去年、『川崎を離れる日が来たら、そのタイミングで一回、休もうという考えもある』という話もしていたんですよ。その時も僕が家でも仕事をする姿や、リビングで寝落ちしちゃっているシーンを何度も見ているから『良いんじゃないですか』と返してくれていて」

 鬼木監督がこれだけ監督業に専念できた背景には、麗子さんの支えがあったことは間違いない。そしてそれは、家族の存在も同様であった。

 大学生の長男はその時、家にいなかったが、数日後、高校生の次男にも公式発表される前に退任の話を打ち明けたという。

「ご飯を食べている時に妻が『言ったら』と切り出してくれたので、『ん...そうか』と。それで『フロンターレ辞めることになったからね』と伝えたら、次男は『うん、分かった』と。でも、ふと見たら、下を向きながら涙を流してご飯を食べている。それを見た妻も号泣しちゃって...こっちももらい泣きしちゃいましたよね」
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 照れくさそうに笑うその横顔には、家族のことを大事に思う父親としての鬼木達の姿が映し出されていた。一方で家族は、そんな父を誇り、そしてフロンターレの大ファンであった。

「子どもたちもフロンターレが大好きで、小さい時からいっつも応援してくれていた。フロンターレを誇りに思ってくれていたからこそ、いろんな感情があったと思うんですよね。それこそ子どもたちは、監督の僕の印象が強いんじゃないですかね。そういう部分もあったと思うんです」

 家族は常に試合を現地かテレビで観戦してくれていたという。また照れくさそうに振り返る。

「うちの家族は、『あれ、俺これから試合があるの分かっている?』っていうような雰囲気でもあるんです。でもそれが自分にとっては楽だったりするんですよね。心のなかでは『俺、大事な試合があるんだけど』とつぶやいたりする時もあるんですが、家族みんなで緊張していたら、自分まで固くなっちゃう。だから家ではリラックスできていましたし、妻は素でやっているような感じもしますが(笑)、かなり助けられました。本当に感謝ですね」

 それこそ、コロナ禍を含め、自分のことを見守ってきてくれたとの想いも強い。

「どちらかというと、うちの家族はみんな自由に過ごしている感じはするんですよ(笑)。でも、家ではそんなにしないですが、試合の前後とかにちょっと僕がピリピリしている時があれば、気を使ってくれているでしょうし、それこそコロナの時ですよね。監督の僕が倒れるわけにはいかないので、結構ナーバスにもなっていて。咳込んでいたりしたら部屋を分けてもらったり、食事を別にしてもらったり、いろいろやってもらっていました。あの時はキツかったですね。家族の絆が希薄になってしまうような気もして。

 でも気付けば長男も、もう大学生ですから。子どもの成長はやっぱり早いですよ。僕は子どもの誇りでありたいと思っていましたし、家族も自分の勝負に徹する部分や、何を大事にしているか理解してくれていた。そういう共有があったからこそ、変なストレスもなく、ここまで監督をやってこられたと思っています」

 監督としての8年はまさに、家族とともに歩んだ道のりでもあった。
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