何度ストップしても、失点を糾弾され続ける。GKに隠された“狂気”【コラム】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2024年02月29日

目立たない影のようになれる自制心が求められる

世界屈指のGKであるエデルソン(左)とアリソン(右)。(C)Getty Images

画像を見る

「LOCO」

 スペインで、ゴールキーパーはしばしばそう定義される。「狂気の人、クレイジー」という意味で、捉え方によってはひどい言い方である。「変わり者」くらいに訳した方がいいのか。

 しかし大事なのは、「GKは狂気を帯びていないと、やっていけないポジション」という本質にあるだろう。

 ピッチに立つ11人の中、GKはたった一人だけ手を使うことが許されることによって、失点の責任を必ず負わされる。権利と義務のバランスは非常に悪い。損な役回りである。

 失点するたび、心を削り取られるだろう。なぜなら、そのロスは挽回できないからで、失点は失点で動かない。例えばストライカーはイージーなシュートをミスしても、次に決めたらミスは帳消しになるし、場合によってはたちまち英雄になれる。しかしGKはたとえ何度ストップをしても、「あのミスがなかったら」と失点を糾弾され続ける。

 狂気を持っていないと、戦いに挑むことはできないポジションだ。

【PHOTO】国立競技場に集結!なでしこ戦士を熱烈後押しする日本女子代表サポーターを特集!
 最大の敵であるストライカーとは、背中合わせのメンタリティを持っていると言えるかもしれない。

 ストライカーは虚栄心や自負心を解き放ち、唯我独尊でゴールを狙う。エゴイズムの塊である。主役のスポットライトを浴びようとする明朗さこそが、彼らのエネルギーだ。

 GKも「ヒーローへの渇望」はありあまるほどあるのだが、同じだけのパワーで自らのエゴを堅く封印しなければならない。十字架に磔にされるのを覚悟し、ゴールマウスに立つ。フォア・ザ・チームに徹し、むしろ目立たない影のようになれる自制心が求められるのだ。

 ありあまるエゴを持ちながらも、それを強く封じられる。
その矛盾に、狂気が滲み出るのだ。

 実際、ティボー・クルトワ、エデルソン、アリソン・ベッカー、ヤン・オブラク、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンなど有力なGKは気高く厳かで、驕ったところを一切、見せない。むしろ、主役を避けるような言動を心掛けている。ビッグセーブの後もガッツポーズをするのではなく、「何事もない。軽く弾き返せるぞ」と相手を畏怖させ、味方を鼓舞する金剛力士像の迫力を漂わせる。その平常心こそが、優れたGKとしての条件と言えるかもしれない。

 一切のミスが許されない彼らは、少しも気を抜かず、最悪の事態に備えて対処し続ける。それは非常に用心深いキャラクターを作り上げるのだろう。あるいは、そういう人物しか、GKとして高みに立てないのだ。

 ストライカーのような能天気さや驕り昂ぶりは毒でしかない。自らを律する健全さこそ、GKの資質と言えるわけだが、そこには狂気が隠されているのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

【記事】エンドウはなんて男、なんて選手なんだ!」120分間奮闘した遠藤航に名将クロップも驚嘆!「彼は今まで見た中で最も...」

【記事】タクミのゴールに救われた」「素晴らしかった」衝撃2発の南野拓実をモナコ指揮官が激賞!「とんでもない試合だった」

【記事】三笘薫が今季絶望――苦悩する“元バルサの天才”が声を上げた!「選手を守らなければ」
 
【関連記事】
「状況が好転する保証はどこにもない」選手も首を傾げたシャビ電撃退任発表の舞台裏「最も指揮官に批判的だったレバンドフスキでさえ...」【現地発】
三笘薫が今季絶望――苦悩する“元バルサの天才”が声を上げた!「選手を守らなければ」
「タケはとてもいい」かつて“冷遇”した敵将アギーレが久保建英を称賛!「彼はスペインに来て以来、最高の時を迎えている」
「エンドウはプレーできない」12試合連続先発の“鉄人”遠藤航、FA杯でついにメンバー外に。クロップ監督が理由を説明
「美しく負けるか、無様に勝つか」――。バルサの基準ではシャビ監督が強烈な批判を浴びるのは当然だ【コラム】

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 王国の誇りを胸に
    4月10日発売
    サッカー王国復活へ
    清水エスパルス
    3年ぶりのJ1で異彩を放つ
    オレンジ戦士たちの真髄
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 特別企画
    5月1日発売
    プレミアリーグ
    スター★100人物語
    絆、ルーツ、感動秘話など
    百人百通りのドラマがここに!
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 完全保存版
    1月17日発売
    第103回全国高校サッカー選手権
    決戦速報号
    前橋育英が7年ぶりの戴冠
    全47試合&活躍選手を詳報!
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ