かつて太田宏介に「サムライ回顧録」という企画で取材した経験がある。ここまでの人生をどう生きてきたか、本人に加え、家族や友人、恩師の証言からその軌跡を紐解く作業はかなり濃厚で今でも鮮明に覚えているほど、印象深いものだった。

　その取材が2015年で、８年の時を経て太田に改めて話を聞く機会に恵まれた。クラブなどの都合で対面取材は叶わなかったが、パソコンの画面越しにこちらの想いを伝える。「今までの編集者・記者人生であれだけ魂を込めた記事（ちなみに家族愛について書いた）はありません。もっとも印象に残っているインタビューです」と。すると、太田は屈託のない笑顔を見せてくれた。

「めちゃくちゃ覚えていますし、定期的に家族内でこの記事の話になります。初心に戻るじゃないですけど、何か大きなキッカケがある度に記事を見て家族でもっと頑張ろうと高め合っています」

　記者冥利に尽きる。書き手の自己満足に終わらず、その作品に関わってくれた方々が今なお記事の内容を覚えてくれていることが何より嬉しかった。と同時に、新たな疑問が浮かぶ。取材当時は独身だった太田が、結婚、子どもの誕生を経て、家族愛の捉え方に変化は出たのかと。そう訊くと、太田の表情が緩まる。

「（2017年に福間文香さんと結婚してから）本当に毎日幸せです。結婚したい想いはずっとありましたが、なかなかそういう相手と巡り会えずに29歳まできて、そのタイミングで妻と出会うことができました。今まで頑張ってきてよかったなと。ふとした瞬間にも『奥さん、可愛いな』と（笑）。この人と結婚できて良かったと思う時が多いので、すごく幸せです」
 

　会った瞬間に「結婚したい」と思った太田にとって、文香さんはまさに運命の人なのだろう。そして2019年、ふたりの間に長男が誕生する。「生まれる前に僕が号泣してしまって、妻が引いていました（笑）。生まれてくる赤ちゃんよりも号泣しました」と当時を回顧した太田は過去の自分を引き合いに出して、次のように家族愛について語った。

「僕は小さい頃から父親と暮らしたことがない。父親と接した思い出がほとんどない。なので、子どもや妻に対して愛情が人一倍ある。自分がされたことがなかったから、自分ができる立場になってより愛情が生まれました」

　2023年に誕生した次男も含め「本当に可愛くて仕方がない」という。子どもたちに誇れる父親にならないといけない。そう真剣な眼差しで話す太田からは、確かな覚悟が見て取れた。

取材・文●白鳥和洋（サッカーダイジェストTV編集長）


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