中国に渡った瞬間、選手は事実上の「代表引退」に追い込まれる。


セレソンの才能と頭脳が中国サッカーに与えている恩恵の程は計りしれないが、その逆となると……。写真は上がパウリーニョ(左)とリカルド・グラール、下はスコラーリ監督。 写真:茂木あきら・小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)
中国クラブによる、ブラジルの現・元代表クラスの選手、監督の「爆買い」が止まらない。
まず今年1月、山東魯能が当時の現役代表FWジエゴ・タルデッリ(アトレチコMG)を移籍金550万ユーロ(約7億6千万円/内訳は70パーセントがクラブ、30パーセントが本人と代理人)、年俸1200万レアル(約5億4千万円)で獲得する。
続いて広州恒大は、6月に昨年のブラジル・ワールドカップでセレソンを率いたルイス・フェリペ・スコラーリを年俸2000万レアル(約7億6千万円)で、7月に当時の現役代表FWロビーニョ(サントス)を移籍金なしの年俸1200万ユーロ(約16億3千万円)で“購入”した。
2部の天津権健も、9月に元代表監督ヴァンデルレイ・ルシェンブルゴを年俸1200万レアル(約3億7千万円)で、12月に元代表FWルイス・ファビアーノ(サンパウロ)を移籍金なしの年俸960万レアル(約3億円)で迎え入れる。
さらに、元代表MFジャジソン(コリンチャンス)を移籍金500万ユーロ(約6億6千万円/内訳は70パーセントが本人と代理人で30パーセントがクラブ)、年俸1440万レアル(約4億5千万円)で手に入れた。
また山東魯能は、12月に元代表監督マノ・メネゼスを年俸1800万レアル(約5億6千万円)でさらっていった。
さらにこの原稿を書いている12月下旬の時点で、ある中国クラブが、現役代表MFルーカス・リマ(サントス)に移籍金1200万ユーロ(約15億8千万円/内訳は90パーセントが投資会社で10パーセントがクラブ)、年俸1440万レアル(約4億5千万円)のオファーを送ったと報じられている。
さらに、天津松江がサントスの若手FWジェウバニオを、移籍金1500万ドル(約18億2千万円/内訳は65パーセントがクラブで35パーセントが投資会社)、年俸850万レアル(約2億6千万円)で獲得を狙っているという。――
このように中国の金満クラブが今、「ブラジル代表」ブランドを目印に、選手と監督を買い漁っている感がある。
ブラジルから中国へ渡った選手の最初の成功例は、2010年6月にアトレチコMGから移籍金350万ドル(約3億2千万円)で広州恒大へ移ったFWムリキ。この年の2部優勝に貢献し、翌年から1部で3連覇。2013年AFCチャンピオンズ・リーグ(ACL)で13点を決めて得点王となり、初優勝の立役者となった。
そして11年7月、アルゼンチン人だが、長くブラジルでプレーしたMFダリオ・コンカ(フルミネンセ)が移籍金1000万ドル(約7億9千万円)、年俸1040万ドル(約8億3千万円)という破格の条件で広州恒大へ。ムリキらとともに、彼も13年のタイトル獲得に貢献した。
以来、中国ではブラジル人選手が非常に高く評価され、一方、ブラジルでは中国クラブによる異例の高待遇が広く知られるようになり、現在、中国リーグ1部(スーパーリーグ)には31人、2部にも17人と、合計48人のブラジル人選手が所属している。
現在、ブラジル人選手の望む移籍先のトップはスペインで、以下、イタリア、ポルトガル、フランス、ドイツが続く。中国は地理的にも文化的にも遠く、キャリアアップに繋がるとも認識されていない。
彼らが中国を目指す理由は、「好条件」のひと言に尽きる。何しろ、ブラジル国内の数倍、欧州の2倍以上の年俸を得られるのだから!
ただし、中国でプレーすることは、セレソン入りを目指す選手にとって障害ともなる。ブラジルでは、中国の国内リーグもACLもテレビで中継されておらず、代表スタッフが中国にいる選手の状態を確認するのは極めて困難である。
中国へ渡った瞬間、ほとんどの選手が事実上の“代表引退”に追い込まれてしまう……。一方のセレソンにとっても、逸材が中国に埋もれるのは望ましくない。
昨年のW杯惨敗から懸命に立ち直ろうとしているセレソンにとって、この極東の新興マーケットは一種の足枷となりつつある。
文:沢田啓明
まず今年1月、山東魯能が当時の現役代表FWジエゴ・タルデッリ(アトレチコMG)を移籍金550万ユーロ(約7億6千万円/内訳は70パーセントがクラブ、30パーセントが本人と代理人)、年俸1200万レアル(約5億4千万円)で獲得する。
続いて広州恒大は、6月に昨年のブラジル・ワールドカップでセレソンを率いたルイス・フェリペ・スコラーリを年俸2000万レアル(約7億6千万円)で、7月に当時の現役代表FWロビーニョ(サントス)を移籍金なしの年俸1200万ユーロ(約16億3千万円)で“購入”した。
2部の天津権健も、9月に元代表監督ヴァンデルレイ・ルシェンブルゴを年俸1200万レアル(約3億7千万円)で、12月に元代表FWルイス・ファビアーノ(サンパウロ)を移籍金なしの年俸960万レアル(約3億円)で迎え入れる。
さらに、元代表MFジャジソン(コリンチャンス)を移籍金500万ユーロ(約6億6千万円/内訳は70パーセントが本人と代理人で30パーセントがクラブ)、年俸1440万レアル(約4億5千万円)で手に入れた。
また山東魯能は、12月に元代表監督マノ・メネゼスを年俸1800万レアル(約5億6千万円)でさらっていった。
さらにこの原稿を書いている12月下旬の時点で、ある中国クラブが、現役代表MFルーカス・リマ(サントス)に移籍金1200万ユーロ(約15億8千万円/内訳は90パーセントが投資会社で10パーセントがクラブ)、年俸1440万レアル(約4億5千万円)のオファーを送ったと報じられている。
さらに、天津松江がサントスの若手FWジェウバニオを、移籍金1500万ドル(約18億2千万円/内訳は65パーセントがクラブで35パーセントが投資会社)、年俸850万レアル(約2億6千万円)で獲得を狙っているという。――
このように中国の金満クラブが今、「ブラジル代表」ブランドを目印に、選手と監督を買い漁っている感がある。
ブラジルから中国へ渡った選手の最初の成功例は、2010年6月にアトレチコMGから移籍金350万ドル(約3億2千万円)で広州恒大へ移ったFWムリキ。この年の2部優勝に貢献し、翌年から1部で3連覇。2013年AFCチャンピオンズ・リーグ(ACL)で13点を決めて得点王となり、初優勝の立役者となった。
そして11年7月、アルゼンチン人だが、長くブラジルでプレーしたMFダリオ・コンカ(フルミネンセ)が移籍金1000万ドル(約7億9千万円)、年俸1040万ドル(約8億3千万円)という破格の条件で広州恒大へ。ムリキらとともに、彼も13年のタイトル獲得に貢献した。
以来、中国ではブラジル人選手が非常に高く評価され、一方、ブラジルでは中国クラブによる異例の高待遇が広く知られるようになり、現在、中国リーグ1部(スーパーリーグ)には31人、2部にも17人と、合計48人のブラジル人選手が所属している。
現在、ブラジル人選手の望む移籍先のトップはスペインで、以下、イタリア、ポルトガル、フランス、ドイツが続く。中国は地理的にも文化的にも遠く、キャリアアップに繋がるとも認識されていない。
彼らが中国を目指す理由は、「好条件」のひと言に尽きる。何しろ、ブラジル国内の数倍、欧州の2倍以上の年俸を得られるのだから!
ただし、中国でプレーすることは、セレソン入りを目指す選手にとって障害ともなる。ブラジルでは、中国の国内リーグもACLもテレビで中継されておらず、代表スタッフが中国にいる選手の状態を確認するのは極めて困難である。
中国へ渡った瞬間、ほとんどの選手が事実上の“代表引退”に追い込まれてしまう……。一方のセレソンにとっても、逸材が中国に埋もれるのは望ましくない。
昨年のW杯惨敗から懸命に立ち直ろうとしているセレソンにとって、この極東の新興マーケットは一種の足枷となりつつある。
文:沢田啓明

かつてJリーグに多くのセレソンプレーヤーが所属した際、彼らの多くはそのまま代表でのキャリアを継続できたが、中国の場合も、時が経つにつれてブラジルからの認識は変わっていいくだろうか。写真は95年の日本対ブラジルにおけるセレソンのスタメン。日本での開催だったとはいえ、Jリーグでプレーした選手はこのなかに8人も! (C) SOCCER DIGEST