【リオ発】奇跡の一歩手前まで迫った元鹿島のジョルジーニョが見せた男気

カテゴリ:ワールド

沢田啓明

2015年12月15日

降格したら罵声を浴びるのが当然の国で見られた、珍しい光景。

どん底状態にあった選手のモチベーションを上げ、一致団結させたその人心掌握術は、ジョルジーニョの監督キャリアにどのような未来をもたらすだろうか。 (C) Getty Images

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「チームを残留させるため、自分の全てを捧げてきた……(絶句して涙)。目標は達成できなかったが、悔いはない」
 
 試合後の言葉が、常に真摯で、自らの職務に全身全霊を傾けるこの男らしかった。
 
 12月6日に行なわれたブラジル全国リーグの最終節、ジョルジーニョ(元鹿島アントラーズ)率いるリオの名門ヴァスコ・ダ・ガマは“奇跡”を起こそうと意気込んでいた。
 
 試合前の時点で、残留圏内の16位と勝点1差の18位(20チーム中)。降格しないための条件は、ヴァスコが15位のコリチーバを倒し、なおかつ16位のアヴァイと17位のフィゲイレンセがともに引き分け以下の結果に終わる、という極めて厳しいものだった。
 
 しかも、アヴァイの対戦相手はすでに優勝を決めていたコリンチャンスで、彼らにとっては完全な消化試合だった。
 
 一方、フィゲイレンセの相手は7位のフルミネンセだが、ヴァスコとは同じリオに本拠を置くライバルであるため、サポーターが「負けてヴァスコを2部へ叩き落とせ」と要求。これに応えるかたちで、フルミネンセは控えチームをピッチへ送り出した。
 
 ヴァスコにとっては、不利な条件が揃い過ぎていた。
 
 午後5時、全試合が同時に始まった。前半は3試合とも0-0。後半開始直後、ヴァスコのMFネネがゴール前でパスを受けてシュートする直前、CBに倒される。完全なPKだったが、主審は流した。
 
 他会場では試合が動き、49分にフィゲイレンセが先制し、56分にはアヴァイも得点。これでヴァスコの残留は絶望的となり、サポーターの多くが泣き始めた。
 
 結局、フィゲイレンセは勝ち、アヴァイとヴァスコが引き分け。これにより、フィゲイレンセの残留とアヴァイ、ヴァスコの降格が決まった。
 
 ヴァスコのサポーターは、号泣しながらも、総立ちでジョルジーニョと選手の健闘を称えた。降格などしたら監督と選手が痛罵されるのは当然のこの国で、それは非常に珍しい光景だった。
 
 そもそもヴァスコの降格は、すでに9月初めの時点で確実視されていた。
 
 リオの4大クラブのひとつであるヴァスコだが、近年はクラブの財政が逼迫しており、若手は育たず、戦力補強もままならない。そんな状態で今シーズンは6月末、8月中旬と2度の監督交代を余儀なくされ、3人目の指揮官としてジョルジーニョは招聘された。
 
 しかし、就任直後にチームは4連敗。この時点で16位との勝点差は13まで広がり、メディアは早くも「2部に落ちた」と報じた。
 
 ところが、ここから驚異的な巻き返しが始まる。指揮官が、選手との徹底的な対話を通じてチームへの無条件の献身と最後まで諦めない気持ちを叩き込んだことで、選手の運動量が急増し、球際でも負けなくなった。
 
 以後、コパ・ド・ブラジル優勝のパルメイラスにアウェーで快勝し、強豪サントスも下して14試合を7勝6分け1敗で乗り切り、最終節まで残留の望みを繋いだ。
 
 もし、コリチーバ戦で主審がPKを見逃さず、フィゲイセンセの対戦相手がリオのクラブでなかったら……奇跡は起こっていたかもしれない。
 
 ジョルジーニョは、2012年末に鹿島アントラーズを退団した後、フラメンゴ、ポンチプレッタ、アル・ワスル(UAE)を指揮したが、目立った実績を残せていなかった。
 
 しかし今回、残留できなかったにもかかわらず、彼のへ評価が高まり、複数の国内ビッグクラブが関心を示した。しかし、ヴァスコの会長はジョルジーニョとの契約延長を切望しており、本人も「来年もこのクラブで」と語っている。
 
 ヴァスコに残った場合、クラブの厳しい財政状態を考えると、茨の道となるのは間違いない。しかし、一度乗り込んだ船を見捨てる気はないようだ。
 
 国内有数の監督としての評価を得られるかどうか――。彼にとって、来年は正念場となるはずだ。
 
文:沢田啓明
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