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松木玖生はなぜPKを蹴らなかった? 2番手の佐野航大が名乗り。かつて総体決勝で対峙した2人が、日の丸を背負い共闘【U-20代表】

カテゴリ:日本代表

松尾祐希

2023年03月07日

今は互いに切磋琢磨しながら信頼関係を築く

松木(左)が奪ったPKを佐野(右)が決める。この1点で勢いづいた日本はキルギスに3発完勝を収めた。写真:佐藤博之

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[U-20アジア杯]日本3-0キルギス/3月6日/JARスタジアム

 中国との初戦同様に、簡単なゲームではなかった。

 U-20アジアカップのグループステージ第2戦、キルギスは中国のように10人で守る陣形ではなかったが、ミドルゾーンでブロックを敷いて、速さと強さを兼ね備えた2トップの突破力を活かしたカウンターを繰り出す。

 日本は相手の得点こそ許さなかったが、苦戦を強いられる。後半の途中まで均衡を崩せない。嫌な雰囲気が漂うなか、MF松木玖生(FC東京)とMF佐野航大(岡山)が流れを変えた。

 72分、FW北野颯太(C大阪)が中央でボールを受けると、前に運んでペナルティエリア内にスルーパスを送る。走り込んだ松木はファーストタッチからシュートを試みたが、上手くボールを収められない。しかし、トラップが大きくなったことが幸いし、GKの前にボールがこぼれる。「ファーストタッチが長くなってしまったんですけど、GKが前に出てきているのが見えた。(ファウルを)上手くもらおう」と咄嗟の判断で前に出ると、GKに倒されてPKを獲得した。

 キッカーは松木――。中国戦でPKを失敗しているとはいえ、誰もがそう思ったに違いない。しかし、ペナルティスポットに向かったのは佐野。ボールをセットすると、相手GKの動きを見て冷静に右足で決めた。

 初戦ではPKキッカーの一番手は松木。本人の口からそういう話を聞いていた。ではなぜ、キルギス戦では松木ではなく、佐野がペナルティスポットに向かったのだろうか。

「昨日の練習でも監督から『蹴るか』という相談はあったんですけど、まず自分はチームに貢献することが一番。自分も自信があるけど、より正確な航大が決めてくれたので良かったと思います」と松木は振り返ったが、佐野はキッカーに名乗り出る際にやり取りがあったと明かす。
 
「(この試合におけるPKキッカーの順番で)自分は2番目だった。クマ(熊田直紀)が1番目だったので『蹴らせて』と言って、玖生にも『蹴らせて』と。ふたりの許可を取って蹴りました。PKには結構自信があったので。絶対に決められると思ったし、いつも通り冷静にいけました」

 佐野にとっては、これが代表初ゴール。昨年9月のU-20アジアカップ予選では無得点に終わり、ゴールを決めたかに思われた場面でも、微妙な判定でチームメイトに得点者を譲る形になっている。そうした悔しさも踏まえ、「得点は個人的に決めたかった」という言葉からも心情が汲み取れた。

 思い返せば、松木と佐野のふたりは高校3年次のインターハイ決勝で対戦し、松木は青森山田、佐野は米子北の10番として奮闘。佐野が前半の立ち上がりに先制点となるPKを決めたが、その後に追いついた青森山田が延長戦で逆転し、夏の王者に輝いた。当時を振り返り、佐野は言う。

「あの時は代表に入ることなんて考えたことなかったし、玖生と一緒のピッチに立つなんて思っても見なかった」

 一方で松木は全く異なる想いを抱いていた。「航大も米子北の頃から上手いプレーヤーで、自分も気になっていた選手」と当時の印象について語る。

 あれから約1年半。敵同士だったふたりが日の丸を背負い、ワールドカップ出場のために中盤でコンビを組んで勝利に貢献したのは感慨深い。

「今一緒にプレーできて光栄だし、結果を残している。自分も刺激をもらっているので、次は自分も結果で応えられるようにしたい」と松木が言うように、今は互いに切磋琢磨しながら信頼関係を築いている。

 別々に歩みを進めてきたふたりの道は再び交差した。友であり、ライバルでもある松木と佐野の活躍から目が離せない。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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