宿敵から挙げる勝利は、それほど特別な意味を持つ。
11月8日、ドルトムント対シャルケの試合会場に向かう道中で、私はふと思った。このルール・ダービーでなにか問題が起きるのではないか、と。
【写真】シンガポール&カンボジア戦に臨む日本代表メンバー23人
ドルトムント中央駅の上空には警察のヘリコプターが旋回し、ファンの衝突を避けるために地下鉄の入り口が封鎖されるなど、厳戒態勢が敷かれていたからだ。しかし、ひとたび試合がはじまると、私の疑念はすっかり消し飛んでいた。
ドルトムントがシャルケを3-2で下した試合の後、私が乗っていた電車に日本人の女性4人が乗り込んできた。すると、彼女たちを見つけたドルトムントのサポーターが、すぐさま「カーガーワー・シンジー」と歌い出した。しかもかなり大きい声で、いつもより母音を伸ばして「カーガーワー」と。
両チームの選手とファンにとって、ルール・ダービーは「普通の試合」ではない。「特別な一戦」である。ドルトムントで生まれた私は、それを子供の頃から知っている。
ヘッドで先制点を決めていつも以上に歓喜した香川もまた、シャルケ戦が持つ意味をしかと心得ていたのである。
初めて出場した10-11シーズンのシャルケ戦(ブンデスリーガ4節)でいきなり2ゴールを挙げて勝利の立役者となった香川は、開催地ゲルゼンキルヒェンから戻ってきた際に、ファンに担がれて祝福された。これが仮にボルシアMGやバイエルンが相手だったら、誰もそんなことはしなかっただろう。宿敵から挙げる勝利は、それほど特別な意味を持つのだ。
ルール・ダービーの前後1週間は、試合の話題で持ち切りになるのが常だ。シャルケのファンはドルトムントの街にも、私が所属しているアマチュアのサッカーチームにもいるが、彼らはしばらくの間、肩身の狭い思いをしなければならない。
試合の話に戻そう。私は『シュポルトシャウ』というTV番組のウェブサイトで、今回のドルトムント対シャルケ戦をこう分析した。「サッカーも、時には平等である」と。
3-2という結果は、まさに正当だったと思う。ドルトムントのほうがパフォーマンスに優れていたとはいえ、シャルケを終始圧倒したわけではないからだ。大差がついていたら、正当な結果ではなかった。
来年4月に予定されている二度目のルール・ダービーでは、現在故障離脱中の内田篤人も出場することを願っている。香川と内田の日本人対決は副次的なものでしかないが、「特別な一戦」を彩るエピソードのひとつになるのだから。
文:マルクス・バーク
翻訳:円賀貴子
【著者プロフィール】
Marcus BARK(マルクス・バーク)/地元のドルトムントに太いパイプを持つフリージャーナリストで、ドイツ第一公共放送・ウェブ版のドイツ代表番としても活躍中。国外のリーグも幅広くカバーし、複数のメジャー媒体に寄稿する。1962年7月8日生まれ。
【写真】シンガポール&カンボジア戦に臨む日本代表メンバー23人
ドルトムント中央駅の上空には警察のヘリコプターが旋回し、ファンの衝突を避けるために地下鉄の入り口が封鎖されるなど、厳戒態勢が敷かれていたからだ。しかし、ひとたび試合がはじまると、私の疑念はすっかり消し飛んでいた。
ドルトムントがシャルケを3-2で下した試合の後、私が乗っていた電車に日本人の女性4人が乗り込んできた。すると、彼女たちを見つけたドルトムントのサポーターが、すぐさま「カーガーワー・シンジー」と歌い出した。しかもかなり大きい声で、いつもより母音を伸ばして「カーガーワー」と。
両チームの選手とファンにとって、ルール・ダービーは「普通の試合」ではない。「特別な一戦」である。ドルトムントで生まれた私は、それを子供の頃から知っている。
ヘッドで先制点を決めていつも以上に歓喜した香川もまた、シャルケ戦が持つ意味をしかと心得ていたのである。
初めて出場した10-11シーズンのシャルケ戦(ブンデスリーガ4節)でいきなり2ゴールを挙げて勝利の立役者となった香川は、開催地ゲルゼンキルヒェンから戻ってきた際に、ファンに担がれて祝福された。これが仮にボルシアMGやバイエルンが相手だったら、誰もそんなことはしなかっただろう。宿敵から挙げる勝利は、それほど特別な意味を持つのだ。
ルール・ダービーの前後1週間は、試合の話題で持ち切りになるのが常だ。シャルケのファンはドルトムントの街にも、私が所属しているアマチュアのサッカーチームにもいるが、彼らはしばらくの間、肩身の狭い思いをしなければならない。
試合の話に戻そう。私は『シュポルトシャウ』というTV番組のウェブサイトで、今回のドルトムント対シャルケ戦をこう分析した。「サッカーも、時には平等である」と。
3-2という結果は、まさに正当だったと思う。ドルトムントのほうがパフォーマンスに優れていたとはいえ、シャルケを終始圧倒したわけではないからだ。大差がついていたら、正当な結果ではなかった。
来年4月に予定されている二度目のルール・ダービーでは、現在故障離脱中の内田篤人も出場することを願っている。香川と内田の日本人対決は副次的なものでしかないが、「特別な一戦」を彩るエピソードのひとつになるのだから。
文:マルクス・バーク
翻訳:円賀貴子
【著者プロフィール】
Marcus BARK(マルクス・バーク)/地元のドルトムントに太いパイプを持つフリージャーナリストで、ドイツ第一公共放送・ウェブ版のドイツ代表番としても活躍中。国外のリーグも幅広くカバーし、複数のメジャー媒体に寄稿する。1962年7月8日生まれ。