[J1第17節]柏３－１神戸／6月18日／三協フロンテア柏スタジアム

　２－１で迎えた65分、コーナーキックからのこぼれ球を胸でトラップした武藤雄樹は、思い切り左足を振り抜いた。雨に濡れたスリッピーなピッチ状況を利用したグラウンダーシュートは、前川黛也の指先をかすめて右ポストを叩き、ゴールへと吸い込まれていった。柏移籍後初得点にして、神戸を突き放す重要な局面での一撃に、武藤は感情を爆発させた。

　昨年7月に浦和から柏へ新天地を求めた武藤。移籍以降、昨シーズンはリーグ戦で13試合に出場したが無得点に終わった。惜しいシーンは何度もあった。武藤自身も「近づいている感覚はある」と手応えを感じていた。そして「サポーターの皆さんを熱くさせるようなプレーをして、本当の意味で“柏レイソルの武藤雄樹”と言ってもらえるように、早く得点を決めたい」と、ストライカーらしく結果を渇望していた。

　だからこそ2022年シーズンに懸ける意気込みは強かった。シーズンが始動した今年１月、武藤は背番号９へ変更した理由とともに、その決意を口にしている。

「クラブから『９番を付けるか？』という言葉をいただいたので、ぜひ付けさせてくださいと言いました。レイソルの９番は今まで素晴らしい選手が付けてきた番号。僕は得点でチームの勝利に貢献したいと思っています。その覚悟と決意を持って9番を付けさせていただくことにしました」

　だがその決意とは裏腹に、２月に右膝半月板損傷、全治約２か月の怪我を負い、離脱を余儀なくされる。４月29日の10節・鳥栖戦で復帰を果たすものの「膝は治ったんですが筋力バランスの影響で少しトラブルが起き、別の怪我をしてしまった」（武藤）と再び戦列を離れることになった。

　武藤は非常に影響力の強い選手だ。以前、大谷秀和は「年上の選手が手を抜かずにやっていれば若い選手はやらざるを得ない。武藤はそういう良い空気を作っていける選手」と武藤のサッカーとの向き合い方を称賛していたことがある。ルーキーの一人、升掛友護もまた「僕と体格的に近い武藤さんのプレーは参考になりますし、すごく上手くて経験もある選手なので勉強になっています」と話しており、カップ戦で得点を量産した升掛の成長に、武藤が与えた影響は決して小さくはないと推測される。

　おそらく怪我で離脱している間も、武藤の練習への取り組む姿勢や周囲への振る舞いは、チームに対して常にポジティブなエネルギーを与えていたのではないだろうか。神戸戦で得点を決めた直後、ピッチ上の選手たちはまるで自分が得点を決めたかのように喜び、さらにベンチにいたサブの選手たちは武藤に手荒い祝福を浴びせていた。
 

　サッカーにも怪我にも、真摯に、直向きに向き合ってきた彼を知っているからこそ、仲間たちはあれだけ喜びを露わにしたのではないか、チーム全体のあの歓喜の姿を見ていると、そう感じずにはいられない。

「サポーターに得点を決めるところを見せられてよかったですし、喜びを一緒に共有できて最高の瞬間だなと思いました」

　試合後、武藤は得点の喜びをそう語った。

　武藤の得点が決まった瞬間、三協フロンテア柏スタジアムのサポーターがドッと沸き上がった。雄叫びを上げ、ユニホームの胸のエンブレムを握りしめながらゴール裏へと駆け寄る背番号９は、まさに彼自身が思い描いていた得点でサポーターを熱くさせる“柏レイソルの武藤雄樹”だった。

取材・文●鈴木潤（フリージャーナリスト）

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