プレーの精度とは、サッカー選手としての基本にある。

「止める、蹴る」

　そのディテールを突き詰めていないと、トッププロ選手としては厳しくなる。そこを上達させるための細やかさや粘り強さを失った瞬間、プレーは凡庸になるだろう。たとえチームがどのようなプレースタイルであっても、トップレベルにはたどり着けない。

　欧州チャンピオンズ・リーグ(CL)、決勝トーナメントでマンチェスター・ユナイテッドはアトレティコ・マドリーの敵地に乗り込んだが、チームとしてうまくいかず、劣勢を強いられている。各選手が孤立。攻守ともに連係ができていなかった。

　ブラジル代表ボランチでもあるフレッジも悪い流れに飲み込まれた一人だったが、ディテールへのこだわりを捨てないことで、突破口を見出していた。

　前半途中、フレッジは味方センターバック、ハリー・マグワイアからパスを受けたが、その処理にてこずり、危うく対峙した敵MFジョフレー・コンドグビアにパスカットされかけた。身体を張って足を投げ出してファウルを取ってもらえたが、危機一髪だった。手のひらを下に向けてぶんぶんと振り、「グラウンダーだろ！？」と味方に訴えていた。

　事実、マグワイアのパスはとても雑だった。軌道も少しずれていたし、何でもないパスを弾ませて送っている。味方を殺しかねないパスだ。

　サッカーはコミュニケーション=コンビネーションで成立している。取りにくいパスを出せば、味方を窮地に陥らせる。高いレベルでは命取りになる。ボールを扱うディテールに、チームとしての練度は出るのだ。

【動画】フレッジのお膳立てから同点弾！アトレティコ戦のハイライト

　もっとも、個人として粘り強くプレーすることでカバーできる部分もある。80分、フレッジは自らのパスをゴールにつなげた。そのシーンは象徴的だった。

　味方がヘディングでつないだボールを、フレッジは柔らかく味方の足下につないでいる。パス交換から再びリターンを受けると、いくらか厳しいパスをしっかりと止め、間髪入れずに寄せに来たコンドグビアの裏に出した。完璧にラインを破るパスで、これを受けたブルーノ・フェルナンデスは優位にボールを運び出し、アンソニー・エランガへの決定的パスにつながり、貴重な同点弾が決まった。

　フレッジのパスは味方を活かしていた。「パスミスが多い」と批判を受けることも多い選手だが、その精度はあくまでチームの中で成り立っているものだろう。少なくとも、この日の試合では最後まで集中してディテールにこだわっていた。

　トップレベルを勝ち抜くにはディテールは欠かせない。それは、思いやりとも言い換えられる。チームがうまくいかないときも、投げ出さずに続けられるか。「良い選手」を語るうえでの一つの定義と言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL　TEATRO　ラ・リーガ劇場』（いずれも東邦出版）など多数の書籍を出版。2018年３月に『ラストシュート　絆を忘れない』（角川文庫）で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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