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「座右の銘? 色紙には“動く!”と書いてますよ」名伯楽・小嶺忠敏が貫いたイズム、そして教え子たちへの無上の愛

カテゴリ:高校・ユース・その他

川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

2022年01月07日

「人間教育だけはピシっとやる。だいたいは3年間で修正できますよ」

高校サッカーでの全国制覇が14回を数えた小嶺先生。だがその功績の偉大さはタイトル数だけでは語りつくせない。(C)SOCCER DIGEST

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 高校サッカー界の名将、小嶺忠敏さんが76歳で他界された。最後にゆっくり話せたのは、4年前のこと。福岡で取材をしていた折、どうしても先生の顔が見たくて、急きょ長崎まで足を延ばした。

 電話を入れて学校に着くまでおよそ3時間。駐車場からグラウンドに出ると、出迎えの生徒数人がやって来て深くお辞儀をし、「どうぞこちらです!」と通された。私を見つけた選手たちは次から次へと直立不動で、丁寧な挨拶をしてくれる。20年前に国見高校を訪れたときの記憶が、フラッシュバックのように蘇った。その迫力と熱量に圧倒されるのだ。

 練習を一番よく見渡せる場所には、折り畳みの椅子がふたつ置いてあった。インタビューするとは伝えていなかったが、なんという細やかな気遣い。先生が段取りしてくれていたようだ。

「おー、来たか。元気にしとったかいね。ここは入り口がちょっと難しいんだ」

 すべてを包み込む温かさと器の大きさ。取材者をも魅了してやまない、圧倒的な人間力だ。駆け出しの記者だった1990年代半ばから、その言葉とイズムに感化され、もう四半世紀が過ぎようとしていた。

 高校サッカー界で、比肩する指導者はいない。島原商業高校、国見高校を全国屈指の強豪校に鍛え上げ、インターハイ優勝6回、全日本ユース(現・高円宮杯プレミアリーグ)優勝2回、高校選手権優勝6回と、合計14回の全国制覇は前人未到の偉業である。2007年からは長崎総合科学大学に籍を置き、大学チームなどを統括的に指導する総監督の立場だったが、2016年春、高校サッカー部の監督に就任した。

 先生は70歳になっていたが、選手たちと同じ寮生活を送る決意を固めた。「本当は僕なんてもう必要ないんだろうけど、居ても立ってもいられなくてね」と笑い、「このままでは長崎の高校サッカーはずっと全国で戦えないレベルのままだという危機感があったし、この子たちをしっかり鍛えなおしたいという想いもありました」と力を込める。そして、「あとはやはり、ここ(グラウンド)が楽しいというのはあるよね」と付け加えた。
 

 サッカーへの探求心が衰えることはなかった。時間を見つけては欧州サッカーの視察に足を運び、若い指導者との交流にも積極的で、常に理想とするスタイルや指導方法をアップデートしてきた。かつてはスパルタ指導で結果を残したが、時代の流れとともに考え方も変化したという。

「若い頃は身体も動いたしイケイケで、それこそ選手たちに体当たりで接していたけど、そこは自分の経験もあるし、時代に合わせていかないといかん。ずっと長い間、妥協をせずに徹底してチャレンジしてやってきたから、その積み重ねがいまに活きてる。経験が助けてくれるんです。選手たちの扱い方、ポジションをどう決めて、試合のコンディションをどう持っていくのかなど、いまの時代に応じてやってます。昔はコンディションもなにもなかったからね。

 子どもたちはモノの豊かな時代で甘えて育ってきているから、いっぺんにやったら壊れてしまう。3年間で、ある程度強い人間を作る。人間教育だけはピシっとやる。だいたいは3年間で修正できますよ。サッカーをする、社会に出ていける人格を形成させる。きちっとできる。そこは変わらず大事にしてます。ただ、若い指導者が僕のようにやっても失敗する。長い経験があってのこと。要領のいい子はたくさんいるから、経験がないと騙されてしまうんだ」

 取材当時、高校卒業後にすぐプロに進みたい選手と、大学でみっちり研鑽を積んでから目ざしてほしい監督との間で、価値観の相違があった。昔と今とで環境が異なるのは理解している。それでも、先生は選手の将来を考えると不安でしょうがなかった。

 以前、Jリーグの新人講習会に招かれた際、小嶺先生はプロ1年生たちを前にしてこんなメッセージを伝えたという。

「135人の新人がいましたね。そこで僕は、こう言ったんだ。『Jリーガーになる夢を達成して素晴らしいと思う。ただ君たち135人が新しく入ったことで、135人が出て行った、クビになったんだという事実を頭に入れておきなさい』と。現在Jリーガーが引退する平均年齢は26歳ですよ。入団当初はうきうきしてるから、なかなかこうした言葉は耳に入ってこないのかもしれないけど、後悔だけはしてほしくないからね。日本は教養の高い国。大学に行けるなら行ってほしい。そうすれば、Jリーグのスカウトさんたちに、『大学を卒業するまで見てやってください』とも言ってやれる」
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