「3つの目標は、まだ捨ててない」
浜松市出身で、小学生、中学生時代をジュビロ磐田の下部組織で過ごした山田大記にとって、清水エスパルスとの静岡ダービーは、子どもの頃から特別なゲームである。
試合ではめったに緊張することはないが、プロになって経験した6度のダービーではいずれも気持ちがたかぶり、平常心で臨めなかった。とりわけ清水のホームである日本平でのプレーには、良いイメージがまるでない。
だが、2017年10月14日に行なわれた7度目の静岡ダービーは、違った。「試合前からまったく緊張しなかったんです。もちろん、ブーイングされて『やってやるぞ』っていう気持ちにはなりましたけど、プレッシャーや気負いはなかった」
なぜ、気負わずにプレーできたのか。
思い当たる理由のひとつは、ドイツに渡って1年目に、ダービーとは比べものにならないほど壮絶なゲームを経験したことにある。
山田が所属したブンデスリーガ2部のカールスルーエは14-15シーズンを3位で終えて、1部16位との入れ替え戦に挑んだ。
対戦相手は、バイエルンやドルトムントでさえ経験のある2部降格を唯一味わったことのない古豪、ハンブルクである。アウェーでの第1戦は、これまでに感じたことがないほど殺気立った雰囲気に包まれた。
「バスはガンガン叩かれるし、発煙筒も焚かれるし、これ、僕らが勝ったら大変なことになるんじゃないかって。本当に異様な、言葉ではちょっと表現できない雰囲気でした。あの環境を味わえたのは大きかったです」
入れ替え戦には敗れたが、身の危険を感じるほどの大一番を戦った経験が、ダービーの舞台では動じないくらい、山田をタフにした。
待望の時は、72分に訪れた。
途中出場からわずか30秒、宮崎智彦のボレーシュートを相手GKが弾くと、いち早くゴール前に飛び込んで、左足で蹴り込んだ。
その瞬間、ゴール裏のサックスブルーの集団が、爆ぜた。
8月末に3年ぶりに古巣に復帰してから初ゴール。それも静岡ダービーでの、日本平でのゴールである。「どうだ!」と誇らしい気持ちが湧いたとしてもおかしくない。
だが、胸のエンブレムを握りしめ、サポーターに向かってガッツポーズを繰り返した山田の内面に迫り上がってきたのは、誇らしさではなく、感謝だった。
「不思議と、やったぞ、取ったぞっていう気持ちはなくて、取らせてもらったという感覚が強かったんです。もちろん、ラッキーな形だったし、そもそもサッカーはひとりでは点が取れないですけど、どのゴールにも増して『取らせてもらった』という気持ちになった。ちょうどサポーターの目の前でしたし」
仲間のお膳立てによって生まれたゴールだった。大歓声で迎えてくれたサポーターによって導かれたゴールでもあった。
しかし、山田の胸に去来した感謝の念は、チームメイトやサポーターだけに向けられたものではない。ダービーの舞台に立てたことへの感謝、再び磐田のエンブレムを身に付けて戦えることへの感謝でもあったのだ。
試合ではめったに緊張することはないが、プロになって経験した6度のダービーではいずれも気持ちがたかぶり、平常心で臨めなかった。とりわけ清水のホームである日本平でのプレーには、良いイメージがまるでない。
だが、2017年10月14日に行なわれた7度目の静岡ダービーは、違った。「試合前からまったく緊張しなかったんです。もちろん、ブーイングされて『やってやるぞ』っていう気持ちにはなりましたけど、プレッシャーや気負いはなかった」
なぜ、気負わずにプレーできたのか。
思い当たる理由のひとつは、ドイツに渡って1年目に、ダービーとは比べものにならないほど壮絶なゲームを経験したことにある。
山田が所属したブンデスリーガ2部のカールスルーエは14-15シーズンを3位で終えて、1部16位との入れ替え戦に挑んだ。
対戦相手は、バイエルンやドルトムントでさえ経験のある2部降格を唯一味わったことのない古豪、ハンブルクである。アウェーでの第1戦は、これまでに感じたことがないほど殺気立った雰囲気に包まれた。
「バスはガンガン叩かれるし、発煙筒も焚かれるし、これ、僕らが勝ったら大変なことになるんじゃないかって。本当に異様な、言葉ではちょっと表現できない雰囲気でした。あの環境を味わえたのは大きかったです」
入れ替え戦には敗れたが、身の危険を感じるほどの大一番を戦った経験が、ダービーの舞台では動じないくらい、山田をタフにした。
待望の時は、72分に訪れた。
途中出場からわずか30秒、宮崎智彦のボレーシュートを相手GKが弾くと、いち早くゴール前に飛び込んで、左足で蹴り込んだ。
その瞬間、ゴール裏のサックスブルーの集団が、爆ぜた。
8月末に3年ぶりに古巣に復帰してから初ゴール。それも静岡ダービーでの、日本平でのゴールである。「どうだ!」と誇らしい気持ちが湧いたとしてもおかしくない。
だが、胸のエンブレムを握りしめ、サポーターに向かってガッツポーズを繰り返した山田の内面に迫り上がってきたのは、誇らしさではなく、感謝だった。
「不思議と、やったぞ、取ったぞっていう気持ちはなくて、取らせてもらったという感覚が強かったんです。もちろん、ラッキーな形だったし、そもそもサッカーはひとりでは点が取れないですけど、どのゴールにも増して『取らせてもらった』という気持ちになった。ちょうどサポーターの目の前でしたし」
仲間のお膳立てによって生まれたゴールだった。大歓声で迎えてくれたサポーターによって導かれたゴールでもあった。
しかし、山田の胸に去来した感謝の念は、チームメイトやサポーターだけに向けられたものではない。ダービーの舞台に立てたことへの感謝、再び磐田のエンブレムを身に付けて戦えることへの感謝でもあったのだ。