「衰えるのは、全部よ。でもね…」遠藤保仁が明かしていた現役続行への確固たる道筋

カテゴリ:Jリーグ

川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

2020年10月09日

「久保くんにはね、すごく感じる部分がある。ホントにすごいよ、あの年で」

若手への期待を口にする。なかでも久保(右)には熱い視線を送っているようだ。(C)Mutsu FOTOGRAFIA

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 分け隔てなく、誰とでも気さくに話せるタイプの人間だ。チームメイトやファン・サポーターに対してはもとより、メディアにとっても長きに渡ってアイドルである。いつも試合後には、老若男女を問わず、数多の取材者がヤットの声を拾おうと集まってくる。メディアを惹きつけるのも、大事な能力のひとつだ。

「しゃべることもひとつの仕事。代表に入ってから、そこはすごく考えるようになった。影響力があると思うから、メディアの人も俺に話を聞きにくるわけでしょ。爆弾発言はしないし、内容には気をつけて話してるけど、大事な役割のひとつだと思って接している。

 若いときは気持ちに波があるから対応もまちまちだったけど、プロとして果たすべき仕事。悪いときでもひと言ふた言は発して、今日はすいませんって言えるかどうかやと思う。ドイツから南アにかけてですごく重要だと感じたし、メディアとはすごく良い距離感でやれてきたかなって」

 では、日本サッカー界の次代を担う若きJリーガーたちのことはどう捉えているのだろうか。価値観における世代間ギャップはあるにせよ、生き字引・ヤットの言葉には、スタープレーヤーへと成長を遂げるためのヒントが隠されているはずだ。

「若手には期待しているところが大きいんだけど、なんかこう、真面目すぎるのかな。もちろん私生活とかじゃなくて、プレーに対してね。これをしないとアカン、これをしなさいって言われすぎてるのかもしれない。それは分かるんだけど、だとしてももっと自分の色を出してほしい。

 対戦相手でもそう思う。全員がハードワークしないとダメだ、球際で戦わなきゃとかに意識が行きすぎてる。自分はもっとカッコ良くセクシーにプレーしたいんです、って選手が出てきてもいいよね。球際で勝てば、試合に勝てるのかってところよ。先に行きすぎてるような気がする。

 自分のとこに来たら全部シュートに行くんじゃなくて、周りも使いながら、遊び心を持ってトリッキーにやってもいい。相手のゴール前ならね。もっと好きなように、自分が思うようにやればいいのにって」

 そんななかでも、ヤットの琴線に触れた若き才能がいる。今シーズン、マジョルカでプレーした久保建英だ。

「久保くんにはね、その遊び心のところですごく感じる部分がある。相手をいなしてやりたいんやろなって。ホントにすごいよ、あの年で。去年までJリーグにいたけど、もうすでにチンチンにしてたからね。

 ちょっとブラジルっぽいプレーもするし、ああいう日本人の若手はいないでしょ。遊んでやろうみたいな。アキ(家長昭博)とかも若い頃から独特で、相手が寄せて来たらはたくし、来なければなんでもできますよ、みたいなところがあった。でも大半の若手は、目の前に敵がいても簡単にシュートを選択しがち。どこかみんなバタバタしている感じがする」

 根底にあるのは、娯楽性の高いサッカーへのリスペクトだ。

「トレンドに乗っかるだけがサッカーじゃない。いまはどうしても、全部がそっちに寄せていきすぎな気がする。いつどこで点が生まれるか。そんなチーム、そんな選手が個人的にはもっともっと増えてほしいなって思う」
 新たな金字塔となったJ1最多出場記録はこれから先、そう容易くは破られないだろう。

 かたや、ヤットが誇るもうひとつの偉大な最多記録はどうだろうか。日本代表での国際Aマッチ出場152試合は、2位タイで並ぶ長友佑都、井原正巳の122試合を30試合も上回るダントツの数値だ。現在33歳のダイナモ・長友がはたして追いつけるかどうか。

 記録保持者の予測やいかに!?

「俺の記録を抜く可能性があるとしたら、冨安(健洋)くんが行けるんじゃないかな。あとは久保くんもあるかも。俺が22歳からスタートした記録だってことを考えても、彼らが15年間まるまる代表で出続けたら十分にあるでしょ。

 でもいまは代表の試合数自体が減ったからね。まあ俺の記録を抜いたらすごい。抜かれて悔しいとかっていうより、純粋に『おおすごいな』って思うだろうね。だいたいこういう記録っていうのは、地味にコツコツやっている選手が達成するのよ。スターやフォワードじゃなくてね。影の存在なんだけど、いつの間にか来てたねって選手が、更新するんじゃないかな」

 そんな鉄人も、いつかスパイクを脱ぐ日はやってくる。引退後のキャリアについては、現時点でどんな青写真を思い描いているのか。

「なにも考えてないけど、監督はやってみたいって思う。まあでもライセンス制度のところが……。まだなにも(どのライセンスも)取ってないからね。引退してすぐに監督をやっているシャビにようにならんかなと。いずれにせよ、真正面から挑む勝負事をしたいよね」

 ヤットには、ささやかな夢がある。現在中3の長男と、いつか同じプロのピッチに立つという夢だ。

「Jリーグでいままでおらんからね。兄弟や双子はあっても、親子はさすがにないでしょ?(笑) 一緒にピッチに立てればいいよね。対戦相手でもいいし、J2でもJ3でも。そこがモチベーションになってるわけじゃないけど、そうなったらいいかなってくらい。

 息子とはサッカーの話はほとんどしないし、観に行ったりもしてない。最初は点取り屋っぽかったけど、最近は俺に寄ってきたのかな。なんにせよ、息子には楽しく、目標を持ってサッカーをやってほしい。それだけだよ。俺はなんとかあと3~4年、頑張っていければ……」

 高1の頃から、遠藤保仁を取材してきた。やはり外野からすれば、心残りは五輪の檜舞台に立てなかった悲運だ。シドニー大会はバックアップメンバーで、オーバーエイジ枠での出場が見込まれていた北京大会は病気を患って招集を辞退した。華々しいキャリアにぽっかりとあいた空洞である。

 1年の延期が決まった東京五輪に向けては──。訊いたあとで、くだらない質問をしたと後悔した。

「五輪? もちろん狙ってますよ! あれだけは出たことないから、出たい気持ちは強いよね。まあでも……、ないでしょ(笑)。個人的には若手だけで行けばいいと思う。俺はいずれ、スタッフで行ける日が来るかもしれんから、そのときまで楽しみに取っておきますよ」

 どこまでも心優しい、サービス精神旺盛な男である。

取材・文●川原崇(サッカーダイジェスト統括部長)
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