イタリア人監督にとって圧力がずっと低い国外の環境は天国。

既存の良い点を活かしながら、徐々に弱点を改善していくスタイルの“優勝請負人”アンチェロッティ。バイエルンで自身4度目の欧州制覇を果たすのは、いつになるだろうか。 (C) REUTERS/AFLO
興味深いのは、かつてユーベやローマのような強豪クラブで指揮を執ったラニエリが、セリエAでの優勝経験を持たないことだ。にもかかわらず、優勝など誰ひとり想像すらしなかったイングランドの小都市で栄冠を勝ち取った。その秘密はどこにあるのか。
間違いないのは、3~4連敗しただけで解任され、記憶から抹消されるような環境、厳しい期待とプレッシャーに慣らされてきたイタリア人監督にとって、そうした圧力がずっと低い国外の環境は天国のようなものだということである。
そこには、腰を落ち着けてチームを築き、自らの能力を発揮するチャンスがある。マルチェロ・リッピやザッケローニがアジアで大きなリスペクトを受けているのも、それだけの時間を過ごし、実績を積み上げたからこそだ。
今シーズン、イタリア人監督のなかで最も大きな期待と注目を集めているのはアンチェロッティだろう。CLを3度制し、セリエA、プレミアリーグ、リーグ・アンでリーグタイトルを手に入れた名将は、「イタリア人監督」のカテゴリーを代表するシンボル的存在だ。
彼には、バイエルンとドイツ・サッカーがひとつのサイクルの終わりを迎えているわけではなく、世界の最先端であり最高峰であることを改めて示すという大きな仕事が期待されている。
その期待を十分に満たすためには、リーグ優勝は当然として、前任者グアルディオラが成し遂げられなかったCL制覇が必要だろう。
とはいえ、それができなかったからといって、レアル・マドリーで受けたような仕打ち、すなわち解任の憂き目に遭うことはないだろう。
アンチェロッティはどんな困難を前にしても平常心と落ち着きを失わず、常に自らの信念と良識に基づいて振る舞うだけの度量と品格の持ち主だ。
目先の勝ち負けがもたらす勘定に振り回されるイタリアやスペインとは異なり、感情よりも理性を優先し、論理的に振る舞おうとするドイツのカルチャーは、アンチェロッティのような監督がその腕を振るう上では、理想的な環境と言えるだろう。
これから数年間を費やすバイエルンでの仕事を終える頃、アンチェロッティがイタリア史上最高の名監督という地位を確固たるものにするだけの実績を残している可能性は、決して小さくはない。
文:マウリツィオ・クロゼッティ
翻訳:片野 道郎
【著者プロフィール】
マウリツィオ・クロゼッティ Maurizio CROSETTI/イタリアで国内販売部数トップを争う一般紙『ラ・レプブリカ』トリノ支局で国内外の取材と論説を担当する看板記者。中立的で冷静なスタンスと鋭い批評眼に定評がある。62年、トリノ生まれ。
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年8月18日号の記事を加筆・修正
間違いないのは、3~4連敗しただけで解任され、記憶から抹消されるような環境、厳しい期待とプレッシャーに慣らされてきたイタリア人監督にとって、そうした圧力がずっと低い国外の環境は天国のようなものだということである。
そこには、腰を落ち着けてチームを築き、自らの能力を発揮するチャンスがある。マルチェロ・リッピやザッケローニがアジアで大きなリスペクトを受けているのも、それだけの時間を過ごし、実績を積み上げたからこそだ。
今シーズン、イタリア人監督のなかで最も大きな期待と注目を集めているのはアンチェロッティだろう。CLを3度制し、セリエA、プレミアリーグ、リーグ・アンでリーグタイトルを手に入れた名将は、「イタリア人監督」のカテゴリーを代表するシンボル的存在だ。
彼には、バイエルンとドイツ・サッカーがひとつのサイクルの終わりを迎えているわけではなく、世界の最先端であり最高峰であることを改めて示すという大きな仕事が期待されている。
その期待を十分に満たすためには、リーグ優勝は当然として、前任者グアルディオラが成し遂げられなかったCL制覇が必要だろう。
とはいえ、それができなかったからといって、レアル・マドリーで受けたような仕打ち、すなわち解任の憂き目に遭うことはないだろう。
アンチェロッティはどんな困難を前にしても平常心と落ち着きを失わず、常に自らの信念と良識に基づいて振る舞うだけの度量と品格の持ち主だ。
目先の勝ち負けがもたらす勘定に振り回されるイタリアやスペインとは異なり、感情よりも理性を優先し、論理的に振る舞おうとするドイツのカルチャーは、アンチェロッティのような監督がその腕を振るう上では、理想的な環境と言えるだろう。
これから数年間を費やすバイエルンでの仕事を終える頃、アンチェロッティがイタリア史上最高の名監督という地位を確固たるものにするだけの実績を残している可能性は、決して小さくはない。
文:マウリツィオ・クロゼッティ
翻訳:片野 道郎
【著者プロフィール】
マウリツィオ・クロゼッティ Maurizio CROSETTI/イタリアで国内販売部数トップを争う一般紙『ラ・レプブリカ』トリノ支局で国内外の取材と論説を担当する看板記者。中立的で冷静なスタンスと鋭い批評眼に定評がある。62年、トリノ生まれ。
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年8月18日号の記事を加筆・修正