イタリア人監督は、サッカーには絶対的な教義や万能の戦術が存在しないという事実を、誰よりもよく理解している。全ては自らが擁する選手の特徴から始まる、というのが基本的な考え方だ。ベースとなるシステムと戦術は、選手たちの特徴を活かし、引き出すことを目的として構築される。
 
　同時に彼らほど、相手や状況に応じてその基本システムや戦術に修正や変更を加える能力に長けた監督たちも存在しない。
 
　例えば、先のEUROでイタリア代表を率いたコンテは、同じ３-５-２で戦いながら相手に応じて起用する選手や守備のメカニズム、攻撃の基本パターンを柔軟かつ的確に変更した。戦力的に劣るイタリアが、ベルギー、スペインを下し、ドイツとPK戦にまでもつれ込む接戦を演じた最大の要因はそこにある。
 
　イタリア人監督が成し遂げた最大の偉業は、むしろプレミアリーグにおけるラニエリの仕事にこそある。降格候補だったレスターを優勝に導くというのは、チーム間の戦力格差が大きく広がった現代サッカーでは本来、「不可能な」「あり得ない」話だ。
 
　ラニエリはこれまで、イタリアでカリアリやフィオレンティーナを率いた後、スペインでバレンシアとアトレティコ・マドリーの監督を務め、プレミアリーグでもチェルシーを再建してモウリーニョに手渡すという仕事を果たした。
 
　さらにイタリアに戻ってから、ユベントス、ローマ、インテルの監督を歴任したキャリアを持つこの名伯楽は、ワールドクラスのスター選手が誰ひとりいない平凡な集団を、堅い結束と戦術的秩序を備えた強力なチームへと編み上げた。
 
　ラニエリは、グループの結束とモチベーションに最大の優先順位を置き、そこにシンプルかつ効率的な戦術を導入した。イングランド・サッカーの伝統に根ざしたパワーとスピード、そして闘争心を前面に押し出しつつ、しかし攻守のバランスにも留意したオーソドックスな戦い方だ。
 
　そしてこのチームは、マンチェスター勢を筆頭に、チェルシー、トッテナム、リバプールというビッグクラブと互角以上に渡り合い、これらの強力なライバルを正面から打ち破ってプレミアリーグを制覇した。