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プロになれずに消えてしまった“魂の点取り屋”と“怪物”の人生【元アルゼンチン代表DFの手記/第2章】

カテゴリ:ワールド

サッカーダイジェストWeb編集部

2020年05月25日

滅多に見ることのできない逸材“ウィチ”

チームでも指折りのテクニシャンだった“ウィチ(青い丸で囲まれた少年)”。その技術の高さは、プラセンテが「怪物」と称したほどだ。 (C) Kindness

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【ルイス・“ウィチ”・パレデス】

 僕らの周りじゃ誰もがウィチのことを知っていた。右利きのエンガンチェ(※トップ下の意)だったけど、左足の使い方も実に巧かった。ピッチの中でも、外でも、いつもニコニコしていて、プレー中も話をしている時も周りを惹きつける魅力的な人柄だった。

 技術的に並外れていて、ボールを駆使して、今だったら僕の子どもたちが『YouTube』で見るようなプレーをやってのけた。スター選手を画面で見ることのできなかった時代の僕らにとって、ウィチのプレーを見ることは、サッカーの持つ美しさそのものだった。彼をチームメイトに持つことは、限られた者だけの贅沢だった。

 なにせ、まるでボールが足の裏にくっついていたかのように足から足へと転がすんだ。ルーレット(ボールを右足裏で止めて身体を反転させてから左足でヒールキック)しながらのアシストや、ボールを片足で止めてからもう一方の足に当ててパスを出す妙技に、ピッチの中から彼を見る幸運に恵まれた誰もが虜になっていた。
 

 ボジャカ通り沿いにあった古いカンチャで、ある土曜日に行なわれたインデペンディエンテとの試合で見せたダブル股抜きなんて忘れられやしない。

 ピッチ中央から左側に10メートルぐらいの位置で、相手が近付いて来るなりウィチは、まず前方に向かって股抜きをやったんだ。ところが、それでは物足りなかったのか、彼は相手を待ってから、もう一度、今度は後方に股抜きをしたんだ。僕の網膜に永遠に焼き付けられる、最高のプレーだった。

 負けている時に相手が寄って来るのを待つなんて、今だったら絶対に監督から罵倒されていただろう。でも、とにかく優雅なプレーだったから、何年か経った後、あのダブル股抜きをやられたインデペンディエンテの選手がプロになってから僕に「ウィチはどうしてる」と聞いてきたことがあったぐらいだ。

 とにかくウィチは怪物だった。並外れていて、滅多に見ることのできない逸材さ。残念ながら、それほどのクラックでありながらプロにはなれなかった。

――最終章へ続く。

文●ディエゴ・プラセンテ(現アルゼンチンU-15代表監督) text by Diego Placente
コーディネート●クリスティアン・グロッソ coordination by Cristian Grosso / La Nacion
訳●チヅル・デ・ガルシア translation by Chizuru de GARCIA

※『サッカーダイジェストWeb』は、『ラ・ナシオン』紙の許諾を得たうえで当記事を翻訳配信しています。
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