ビルドアップとポゼッションのパス精度は十分に高く、敵陣の浅い地域まではスムーズにボールを運んでチームを押し上げることができていた。ただしそこから先、ラスト30メートルの攻略に関しては、単独で違いを作り出す個のクオリティが欠如していることもあって、決定機らしい決定機は数えるほどだった。しかしこれは監督やシステムや戦術の問題ではなくタレントの問題であり、一朝一夕に解決できる問題ではない。
 
　ボール奪取後のポジティブトランジションに関しては、もちろん直接ゴールを目指すカウンターアタックが第一の選択肢だが、無理に急ぐことはせず、縦へのパスルートが見えなければ一旦ポゼッションを確立することを選ぶ。

　敵のビルドアップに対しては、敵最終ラインに高い位置からプレッシャーをかけていくのではなく、自陣に守備ブロックを形成してハーフウェイラインのやや手前からプレスを開始するミドルプレスが基本。ブロック守備の陣形は、両ウイングバックが最終ラインまで下がり、左右のウイングもセントラルMFと同じ高さまで下がって中盤ラインを形成する５－４－１だ。
 

　５バックは、３人のCBで敵FWに対して数的優位を保って中央をプロテクトしながら、サイドのスペースも埋めることができる。さらにその前を４人の中盤ラインが固める５＋４の守備ブロックは、理屈の上では最も堅固で安定した陣形と言える。日本は一旦このブロックを形成した後は、縦横両方向にコンパクトな陣形を保ち、２ライン間にスペースを与えることなく、危なげなく相手の攻撃をはね返していた。
 
　ディフェンスの基本的なプレー原則は、人よりもボールに基準点を置き、敵をマークするよりも味方との距離感、陣形のバランスを重視することで、組織的にスペースをケアするというもの。ゾーンディフェンスを基本としながら、ゾーンの中で人を捕まえたら、陣形の維持よりもマンマークに優先順位を置いて１対１のデュエルで相手を食い止めるというハリルホジッチ時代のプレー原則とは、明らかに異なっている。しかし、ザッケローニ時代は一貫してこのボールに基準点を置いたゾーンディフェンスを採用してきたこともあって、選手たちは自然にこのメカニズムを遂行していた。

　ボールロスト時のネガティブトランジションは、ゲーゲンプレッシングによる即時奪回が第一の選択肢。ポゼッションでチーム全体を押し上げ、ボールサイドに人数をかけているため、ボールとその周囲の受け手に効果的なプレッシャーをかけ、奪うことはできなくとも速攻を許さず、落ち着いて段階的にブロック守備へと移行することができていた。
 
分析●ロベルト・ロッシ
取材●構成：片野道郎
 
【分析者プロフィール】
ロベルト・ロッシ／1962年３月16日生まれのイタリア人監督。ＭＦだった現役時代は、チェゼーナの育成部門でアリーゴ・サッキ（元イタリア代表監督）に、ヴェネツィアではアルベルト・ザッケローニ（元日本代表監督）に師事。99年に引退し、01～08年はラツィオやインテルなどでザッケローニのスタッフ（コーチ兼スカウト）を務める。その後は独り立ちして下部リーグの監督を歴任。16－17シーズンはスパルのＵ－19監督を務めた。現在はフリー。