バルサにとっては「アクシデント」だったマルティーノ時代…。
ペップ時代のバルサは、コンパクトネスを意識してのポゼッションをベースにゴールを目指す形が基本。コンパクトな陣形を常に維持していれば、パス回しの円滑さが増すと同時に、ボールを失っても密集度が高いのですぐさま奪回できるという考え方だ。
しかし、L・エンリケのバルサは、前記した通り、ゴールを目指す縦への速さを第一の目的に掲げる。いずれもポゼッションをプレーモデルの土台にしているが、このディテールの違いは決して小さくない。
実戦に近い練習の話を続ければ、選手同士の距離もそれに当てはまる。組織戦術が高度化する一方の現代フットボールでは、選手たちは35~40メートルという限られたスペースの中でのプレーを常に強いられる。だから練習でも、両チーム合わせて20人のフィールドプレーヤーを同じシチュエーションに置き、その中でポゼッション、フィニッシュ、さらにはミニゲームも行うことで実践力を養っていくわけである。
L・エンリケのバルサが、どんなトレーニングを積んでいるか、何となくイメージしてもらえただろうか。ちなみに、この一連の練習メニューの変化は、モダンフットボールの傾向とそれに伴う進化と置き換えて考えることもできる。
そうした意味で、バルサにとっては“アクシデント〞と呼ぶべきものだったのが、2013年夏のヘラルド・マルティーノの監督就任だ。一昔前の理論を持ってやって来たこのアルゼンチン人指揮官は、フィジカル、テクニック、戦術を切り離す古臭い考え方しかできなかった。
就任から数か月後には、シャビ、イニエスタ、メッシといった中心選手から、その練習メソッドの効用に疑問を呈する意見が出された。カンテラ時代から、ロンドからポゼッション、ミニゲームに至るまでいかなるメニューにおいても、戦術的判断力を養うことを第一目的に練習してきた彼らからすれば、フィジカルやテクニックなど個別能力に特化した練習は、無意味としか感じられなかったのだ。
マルティーノのバルサ監督生活は選手から反発を食らったこの時点で終焉を迎えたも同然で、実際に無冠に終わった末、わずか1年で解任された。
ボールを蹴る時も走る時も、チームが志向するプレーモデルに従って的確な状況判断を下しながら、様々な局面を打開していく。それこそが、プロフットボーラーに何よりも不可欠な能力である。L・エンリケ率いるバルサでは、それを磨くためのトレーニングが日々繰り返されているのだ。
文:カルレス・クアドラット
翻訳:下村正幸
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年11月3日号より転載
【著者プロフィール】
カルレス・クアドラット/バルセロナのカンテラで左SBとして育成され、サバデルやガバ、年代別のスペイン代表などで活躍する。1999年の引退後はバルサの下部組織で指導に当たり、フランク・ライカールトの腹心としてバルサとガラタサライのフィジカルコーチ、サウジアラビア代表やエルサルバドル代表のアシスタントコーチなどを歴任。今夏からインド・リーグのベンガルールFCでセカンドコーチを務める。1968年10月28日生まれ。
しかし、L・エンリケのバルサは、前記した通り、ゴールを目指す縦への速さを第一の目的に掲げる。いずれもポゼッションをプレーモデルの土台にしているが、このディテールの違いは決して小さくない。
実戦に近い練習の話を続ければ、選手同士の距離もそれに当てはまる。組織戦術が高度化する一方の現代フットボールでは、選手たちは35~40メートルという限られたスペースの中でのプレーを常に強いられる。だから練習でも、両チーム合わせて20人のフィールドプレーヤーを同じシチュエーションに置き、その中でポゼッション、フィニッシュ、さらにはミニゲームも行うことで実践力を養っていくわけである。
L・エンリケのバルサが、どんなトレーニングを積んでいるか、何となくイメージしてもらえただろうか。ちなみに、この一連の練習メニューの変化は、モダンフットボールの傾向とそれに伴う進化と置き換えて考えることもできる。
そうした意味で、バルサにとっては“アクシデント〞と呼ぶべきものだったのが、2013年夏のヘラルド・マルティーノの監督就任だ。一昔前の理論を持ってやって来たこのアルゼンチン人指揮官は、フィジカル、テクニック、戦術を切り離す古臭い考え方しかできなかった。
就任から数か月後には、シャビ、イニエスタ、メッシといった中心選手から、その練習メソッドの効用に疑問を呈する意見が出された。カンテラ時代から、ロンドからポゼッション、ミニゲームに至るまでいかなるメニューにおいても、戦術的判断力を養うことを第一目的に練習してきた彼らからすれば、フィジカルやテクニックなど個別能力に特化した練習は、無意味としか感じられなかったのだ。
マルティーノのバルサ監督生活は選手から反発を食らったこの時点で終焉を迎えたも同然で、実際に無冠に終わった末、わずか1年で解任された。
ボールを蹴る時も走る時も、チームが志向するプレーモデルに従って的確な状況判断を下しながら、様々な局面を打開していく。それこそが、プロフットボーラーに何よりも不可欠な能力である。L・エンリケ率いるバルサでは、それを磨くためのトレーニングが日々繰り返されているのだ。
文:カルレス・クアドラット
翻訳:下村正幸
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年11月3日号より転載
【著者プロフィール】
カルレス・クアドラット/バルセロナのカンテラで左SBとして育成され、サバデルやガバ、年代別のスペイン代表などで活躍する。1999年の引退後はバルサの下部組織で指導に当たり、フランク・ライカールトの腹心としてバルサとガラタサライのフィジカルコーチ、サウジアラビア代表やエルサルバドル代表のアシスタントコーチなどを歴任。今夏からインド・リーグのベンガルールFCでセカンドコーチを務める。1968年10月28日生まれ。