夏の市場があと20日以上残っているなか、このペースで活躍し続ければおのずとステップアップの可能性が広がってくる。しかしSTVVが「涼太郎システム」の中盤を構築した現在、彼に出ていかれてしまうと、チームビルディングそのものをやり直さないといけなくなる。

――目に見える結果を残している伊藤選手にこれからオファーが来るかもしれません。ステップアップもしたいでしょうし、今いるシステムでプレーするのも良いことです。その辺、どうでしょうか？　

　そう尋ねると、伊藤は言葉の一つひとつに力を込めて言った。
　
「ステップアップしたいという気持ちはありますけれど、ただ別に今すぐオファーがあるわけではないので、今、できるかぎり僕は本当にこのチームで頑張りたいと思っている。このチームで結果を残して、このチームがもっともっと上に行けるようなプレーを心がけているので、移籍というところに関して今、僕の口から言えることは別に何もないという感じですね」
 

　デンダー戦の勝利でSTVVは２勝１分け、勝点７で２位に付けている。もちろん開幕早々、順位のことを言っても意味がないのは百も承知。しかし、昨季は開幕から３連敗し、第４節ではデンダー相手に後半アディショナルタイムに追いつかれて３－３で引き分けるという最悪のスタートだったことを思えば、その順位はSTVVが今、正しい方向に進んでいるという道標にはなるだろう。
　
「去年は（最後まで残留争いに巻き込まれ）個人としてもチームとしても相当悔しい思いをしました。今年は本当に自分にとっても勝負の年。『結果を出さないといけない』とプレシーズンのときから思ってましたので、良い入りができていると思います。ただ、３試合したばっかりなので、これからもっともっとこういったプレーをしてきたいと思ってます」

　ベルギーのサイト『スポルツァ』はデンダー戦のマン・オブ・ザ・マッチに伊藤を選び、「伊藤は中盤の皇帝。長短のパスを操った。この日本人は後半開始直後にチームの２点目を決め、試合を締めくくった」と評した。ベルギーで「マジシャン」の異名で愛されている伊藤涼太郎はその輝きをすっかり取り戻した。

取材・文●中田 徹
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