――CFGの経験を持つことから、てっきり利重さんはMCO（マルチクラブ・オーナーシップ）を目ざしているのかと思ってました。

利重「自分も長年MCOのど真ん中にいましたが、MCOを目論見通りに展開していくのは、まあ大変ですね」

――なにが難しかったですか？

利重「一つひとつのクラブにはそれぞれ固有のアイデンティティがありますが、それを“グループ全体の機能の一つ”として捉えないとMCOは成り立ちません。しかし、それは各クラブにとっては本質的には受け入れがたいことであって。また、MCOを機能させるためには巨大な資金を要するので、誰でも手掛けられる話ではない割りに、MCOの数が供給過多になっている気がします。

　MVVマーストリヒトの経営参画は、日本サッカー界が次のステージに進むためのショーケースとして立ち上げたもの。日本の高校・大学・Ｊクラブには、もっと我々を凌駕するスケールで追随してきてほしい。当方が現在進行形で得ているノウハウや知見、経験を提供することは惜しみませんので。

　Ｊリーグインターナショナル（英国・ロンドン）が今年から稼働していますが、かたやリーグの出店、かたやクラブへの出資と形こそ違えど、目的は非常に似ていると感じています。例えば、Ｊリーグインターナショナルでは現地の選手、監督、SD（スポーツディレクター）などの一次情報を整備して、日本のマーケットで役立てようとしています。これまでは日本にはタイムリーに現地の一次情報が入ってこず、日本でプレーしたい選手を取りこぼしていました。今後はMVVマーストリヒトで手に入る一次情報も、Ｊクラブでぜひ活用してもらいたいと考えています」

飯塚「選手のステップアップの一つに日本が組み込まれればいいですよね。今だと５大リーグに行く手前にベルギー、オランダがある。そこで伸び悩んでいる選手、ポテンシャルを持つ選手が日本を挟んで直接５大リーグに行けるようになってほしい」

――「日本サッカー界全体でMCOを持つ」。そんな世界観ですか？

利重「確かにそれは言い得て妙ですね。これから横の繋がりも生まれてくると思います。若手選手がヨーロッパに来るタイミングが早まり、Ｊリーグでプレーすることなく渡欧する選手も出てきました。こちらのエージェントも育成世代の日本人選手を驚くほどよく知ってます。Ｊリーグにとっては一見好ましくないことかもしれませんが、Ｊクラブがヨーロッパクラブを取り込むことで、若手選手がプレーする場が日本であってもヨーロッパであっても、Ｊクラブでプレーしている世界を作っていけるのではないでしょうか」

――MVVマーストリヒトから話がどんどん逸れていってしまい申し訳ありません。

利重「いえいえ、むしろ根幹の部分だと思いますよ。そのためにもMVVマーストリヒトで成功しないと説得力がない。結果的にエールディビジへの昇格や、日本人選手の活躍が実現すれば望ましいですが、それ自体が目的ではありません。日本からさまざまなステークホルダーがヨーロッパに進出する時代の先駆けでありたいと」
 

――MVVマーストリヒトのスタジアムは駅から歩いていけますし、高速道路の脇にありますし、すぐ横にホテルもあります。立地がいいですよね。

飯塚「それこそ、オランダと日本を繋ぐため、マーストリヒトの施設・ホテルを使って遠征・留学に来てもらいたいと考えています。マーストリヒトにはサッカーグラウンドや宿泊施設が充実しています。また、地理的にはオランダ、ドイツ、ベルギーに隣接しており、この周辺には３か国合わせて10以上のプロクラブがあります。ここを基地にした遠征・合宿・留学をどんどん受け入れていきたいと思ってます」

利重「『マーストリヒトはサッカー遠征でかならず行くところ』というブランドにしたい」

飯塚「前職で私もサッカーキャンプを何度かチャレンジしましたが、皆さんにとって人生で何回も行く話ではないので大きい街とか、有名なクラブに行きたがる部分がある。そういった点でマーストリヒトは拠点として魅力的。最近、『オランダの街、ブランドランキング』でマーストリヒトがアムステルダムを抜いて１位になりました」

――遠征の拠点マーストリヒトが日本サッカー界の出島になるわけですね。

利重「まさにその通り！マーストリヒトは誰もが憧れる美しい街です。近くにはレベルの高いフットボールクラブがいくつもあって、練習場のピッチは良く、宿泊施設も申し分ない。引率の大人たちが食事や文化を楽しむこともできる。交通の利便性もいい」

飯塚「マーストリヒトを日本サッカーのハブにしたいですね！」

取材・文●中田 徹
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