【大宮】たったひとつの椅子を争う男たち――塩田仁史が加藤順大に贈った言葉

カテゴリ:Jリーグ

古田土恵介(サッカーダイジェスト)

2016年05月09日

“経験”という重さ。塩田の魔法で、加藤の緊張はほぐれた。

ゴール裏に詰めかけた浦和サポーターに「ようやく感謝を伝えられた」(加藤)。つかえは取れたものの敗戦の悔しさは募るだけに、アウェーでの戦いでは必勝を誓った。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 どんな言葉を贈ったのか。「特には言ってないですけど」。そう前置きして、続けた。「(ピッチに出る前の)アップ場で(加藤が)タメ息ばかりついていたからね。緊張しているのが分かったし、その気持ちも理解できた。『何回、タメ息をついてんだ。いつもどおりやればいいんだよ』って。『気にすることはない』って話したんですけどね」。
 
 誤解を怖れずに言えば“ありきたり”。だが、乗り越えた男から発せられると重みが違う。加藤には至言に聞こえたに違いない。変わらずに臨むことが大切なのは重々承知していても、圧し掛かってくるモノは桁違い。そこに、当たり前を取り戻すための魔法がかけられた。
 
「プレー面で、ああだこうだ言うことはなかったですよ。実力があるのは、よく分かっていますから」
 
 諸々を吹っ切った加藤は、アップのために元気にピッチへと姿を現わした。そこで、「オレンジと紺に心燃やせ」という大声援にも背中を押される。「良い雰囲気をスタジアム全体が作ってくれていた。それに恥じないプレーをしたいと思っていた」。
 
 普段通り、集中してゲームに入った加藤は冷静な判断と果敢な飛び出しを披露。「どこから仕掛けてくるのか。ミシャ(ペトロビッチ監督)の下でプレーしましたから、イメージはしやすかった」。
 
 自軍のミスを発端として1点こそ失ったものの、ビッグセーブもあってそれ以上はゴールネットを揺らすことを許さなかった。79分には味方がシュートブロックして軌道の変わったボールに反応。態勢を立て直して、間一髪で弾き出している。
 
 結局、唯一のゴールが勝敗を分けた。悔しさは募る。しかも、特大のものだ。「アウェーでは、しっかりリベンジを果たしたい。内容は悪くなかったし、その自信も今日の試合でついた。次は必ず勝ちます」。“さいたまダービー”で受けた傷は、“さいたまダービー”でしか癒せない。
 
 ただ、その傍らでひとつのつかえが取れたのも事実だ。どんな試合になっても、終わったら浦和サポーターに挨拶に行く。それが達成できたのだから。「ようやく感謝を伝えられた」加藤には、好意的な反応が向けられた。それは、彼の積み上げを忘れていない証明だった。

 塩田と加藤。FC東京と浦和から同じ時期に、同じような境遇で大宮へと居場所を求めたふたり。時に支え合いながら、時にバチバチの火花を散らしながら、たったひとつの椅子を争う彼らの物語は、まだまだ終わらない。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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