迎えた後半戦。年が明けると、１月21日の17節・カンブール戦でついに移籍後初ゴールが生まれる。得点を決められる感覚があったわけではない。そうした状況下でいかにネットを揺らすか。「（ゴールが決まる時の感覚を）理解できれば、良い状態をコントロールできるようになる」。

　掲げていたテーマを見事にクリアし、ひとつ壁を乗り越えた。すると、一気に調子を上げ、３月５日の24節・エクセシオール戦（４－１）から３月18日の26節・エメン戦（２－０）まで３試合連続ゴールを記録する。

　この時も決して“ケチャップドバドバ”の状態ではなかったというが、「自信になった。点が取れる感覚はなかったけど、連続でゴールが奪えたのは、自分の中でちょっと成長したのかな」。

　ゴールのバリエーションも増え、特にエメン戦の得点は凄まじかった。左サイドから巧みなステップで相手２人を置き去りにし、エリア内に侵入して強烈な一撃を突き刺す。そうしたプレーが見られるようになったのも成長の証。周りの見る目も変わり、攻撃の軸として信頼度が高まってきた。
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「攻撃のバリエーションの１つとして、自分の仕掛けや裏抜けがチームとして確立されてきた。その感覚はあるので自信になっている」

　惜しくもエメン戦で負傷し、直後に予定されていたU-22代表の欧州遠征は招集辞退となったが、参加していればどんなプレーを見せていたのか。「めちゃくちゃ行きたかった」。昨年６月のアジア杯で味わった雪辱を果たす舞台だっただけに、素直に悔しさを滲ませる。

　パリ五輪開幕まで残り１年３か月。出場権を懸けた最終予選までは１年弱しかない。代表への想いは日増しに高まっている。
 

「本当に大事な大会になる。そこで結果を残せれば、いろんなチームが注目してくれるし、ステップアップもできるはず。自分のキャリアを考えれば、大事な大会。そのためにもまずはパリ五輪に出たい」

　パリ五輪を見据えれば、リーグ終盤戦ではさらなる結果が求められる。ゴールもアシストもまだまだ足りていない。しかし、欧州に渡ってから２年４か月が経ち、経験値も引き出しも増えた。確かな成長を続けており、精神的な強さは日本の時とは比べものにならない。

　百聞は一見に如かず――。「チャレンジしたほうが良い」。渡欧する前に三浦知良（現・UDオリヴェイレンセ）や中村俊輔、松井大輔（現・Y.S.C.C.横浜）、伊野波雅彦から何度も言われていた言葉を、本当の意味でようやく理解できた。

「『海外に行くと強くなるぞ』とよく言われていたんです。その言葉の捉え方が日本にいた時は『身体が強くなる』とか、そういうイメージの世界だったんです。でも、こっちに来たら、もちろん身体も強くなるけど、人として強くなれる。自分の中で理解が変わった」

　一つひとつの体験が血となり骨となる。２年４か月の時を経て、精神的に逞しくなった。それだけでも海外に来た意味はある。だからこそ、ヨーロッパでの戦いは刺激的だ。

「挑戦し続ける人でありたい」。パリ五輪に向けて走り続ける男は、新たな景色を見るべく、今日もまた異国の地でボールを蹴り続ける。

※このシリーズ了

取材・文●松尾祐希（サッカーライター）

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