【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十一「日本らしさという罠」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年06月04日

型にはまった一国のスタイルで挑んでも、世界では通用しない。

2010年にスペインが世界王者になった時は、バルサ勢を中心に各地域の選手が集まり、力をひとつにしていた。日本もそれにならい、まずは地方の奮起を促すべきだろう。 (C)Getty Images

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 筆者はサッカーダイジェスト本誌で、2007年から09年まで「フットボールの色彩」というJリーグのある都道府県を巡る紀行ルポを連載していた。各地域によって、フットボールの捉え方や長所や短所は等しくなかった。
 
 例えば九州の選手は体躯に恵まれ、爆発的な走力や筋力を備え、攻めに乗じる戦い方を得意とし、火が噴き出すような迫力を見せる。しかし性格的に集中力が持続せず、とりわけ劣勢になるとたちまち崩れ立つ弱さがある。鹿児島実業、国見、東福岡らの伝統的戦いは、どの高校も真似できるモノではなかった。そして同じ九州でも、各県で特徴は違う。
 
 その連載を始めたのは、筆者が取材してきたスペインで「各地方、町、クラブの特色がフットボール大国を支えている」という現実を目の当たりにしたからだった。地元の風土に即した型、スタイル。それは必ず存在する。
 
 スペイン南部のアンダルシアはフラメンコや闘牛が盛んで、アンダルシア人たちは「瞬間芸術」を好む。相手をひらりとかわすドリブルは、心地良いリズム感と闘牛士のマントを思わせ、喝采を浴びる。ドリブラーは必ずしも勝利をもたらすわけではないが、華々しさが愛される土地だからこそ、その技が磨き上げられる。ヘスス・ナバスはその代表格だろう。
 
 スペインが2010年に世界王者になった時、当時、全盛を極めていたバルサ勢を中心に、イケル・カシージャス、セルヒオ・ラモス、ヘスス・ナバス、シャビ・アロンソなど各地域の選手が集まり、力をひとつにしていた。そこで勝利を重ねることによって、結果的にスペインらしさとして伝わった。
 
 型にはまった一国のスタイルで挑んでも、世界では通用しない。
 
 クラブオーナーや指導者は、「日本らしい型」などと途方もない大風呂敷を広げるべきではないだろう。人口数百万人の国だったら中央集権体制も有効な方策だろうが、日本はそれに当てはまらない。
 
 町、もしくはクラブという単位で独自の型を作り、そのうえで異なった型の集合体がひとつに糾合される――。その時に初めて、世界を席巻するようなエネルギーを生み出せるはずだ。
 
 日本らしさ。その型よりも、地方の奮起が求められる。
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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