必要以上の報道を避け「大人の自制心」を望む。
FCバルセロナの下部組織を退団したMF久保建英が、4月に初めて年代別の日本代表へ招集(U-15代表のインドネシア遠征/4月12 日~19日)された。
これはサッカーファンのみならず一般層にも火をつけるビッグニュースとなり、発表当初から多くのメディアが紙面を割いて報道。さながら“久保フィーバー”である。
そのなかで盛んに「飛び級」という表現が使われたが、これは誤解である。U-15代表が出場を目指すU-17ワールドカップは2年に一度の開催。このため、選手の選考対象は2年のスパンとなる。今遠征メンバーの最年長は00年に生まれた選手たちで、久保は01年の6月生まれ。ゆえに特別なことではないのだ。
例えば、2年前にも同時期にミャンマー遠征を行なっているが、やはりひとつ下のMF田中陸(現・柏U-18)が選ばれている。最終的にU-16アジア選手権に選ばれたメンバーを見ても、3人が下の学年からピックアップされており、久保のようにひとつ下の学年から選ばれる選手が出るのはさほど珍しくない。
もちろんこの年代の1歳差は大きく、年長世代が絶対的多数派にはなるが、「久保は飛び級で選ばれた! やっぱりトンデモない天才だ!」といった意見は少々的外れだ。あえてうがった見方をすると、「天才であってほしい」という願望さえ透けて見える。
日本における「FCバルセロナ」のブランド力は絶対的なものがある。今回の代表選出に関する一般メディアの沸き立ちようは筆者の想像を大きく超えるもので、おそらく協会側の予想も上回ってしまったのではないだろうか。
3月のU-15代表候補合宿において、森山佳郎監督は久保についてこう言及している。
「日本国内の合宿に呼んでしまうと、メディアもファンも騒ぎ過ぎてチームが“変な空気”になってしまう。彼を呼ぶのは誰も取材に来ないような海外遠征の時にしようと思っている」
実際、今回のインドネシア遠征で初招集となったわけだが、森山監督の意に反して遠征には複数のテレビ局が帯同。ある民放局では看板番組で「久保特集」まで組む予定で、指揮官が危惧していた以上の大きな喧騒になりそうだ。この事態を受け、日本協会は個別取材に規制をかける旨を伝える異例のプレスリリースを出したほどだ。
日本サッカー界のみならず日本社会に停滞感があるなかで、“英雄待望論”が13歳の少年に集まっているということだろうか。代表のチーム作りという意味でも、一選手が過剰にフォーカスされてしまう状況は好ましくない。
もちろん、実際に試合で活躍した時にそれを取り上げるのは良いとして、この流れではそうもならないのではないか。久保はJアカデミーへの移籍が濃厚(※FC東京U-15むさしへの加入が決定)となっているが、思春期真っ盛りの時期に環境が激変するだけでも難しいもの。それにこの喧騒が重なるようでは彼のためにならない。ここは報道側に「大人の自制心」を望みたい。
文:川端暁彦(サッカーライター)
PROFILE くぼ・たけふさ/ 01年6月4日生まれ、神奈川県出身。川崎の育成組織に在籍していた10年にバルセロナスクール選抜の一員としてベルギーで開催された国際大会でMVPを獲得。11年8月に下部組織(カンテラ)の入団テストに合格し、日本人として初めてバルセロナと契約した。下部組織での活躍ぶりから、今後の成長が期待されていたが、14年に同クラブの未成年選手の登録違反が発覚。その対象に含まれていたためFIFAから今後4年間の公式戦出場禁止を言い渡され、退団と帰国を決断した。
これはサッカーファンのみならず一般層にも火をつけるビッグニュースとなり、発表当初から多くのメディアが紙面を割いて報道。さながら“久保フィーバー”である。
そのなかで盛んに「飛び級」という表現が使われたが、これは誤解である。U-15代表が出場を目指すU-17ワールドカップは2年に一度の開催。このため、選手の選考対象は2年のスパンとなる。今遠征メンバーの最年長は00年に生まれた選手たちで、久保は01年の6月生まれ。ゆえに特別なことではないのだ。
例えば、2年前にも同時期にミャンマー遠征を行なっているが、やはりひとつ下のMF田中陸(現・柏U-18)が選ばれている。最終的にU-16アジア選手権に選ばれたメンバーを見ても、3人が下の学年からピックアップされており、久保のようにひとつ下の学年から選ばれる選手が出るのはさほど珍しくない。
もちろんこの年代の1歳差は大きく、年長世代が絶対的多数派にはなるが、「久保は飛び級で選ばれた! やっぱりトンデモない天才だ!」といった意見は少々的外れだ。あえてうがった見方をすると、「天才であってほしい」という願望さえ透けて見える。
日本における「FCバルセロナ」のブランド力は絶対的なものがある。今回の代表選出に関する一般メディアの沸き立ちようは筆者の想像を大きく超えるもので、おそらく協会側の予想も上回ってしまったのではないだろうか。
3月のU-15代表候補合宿において、森山佳郎監督は久保についてこう言及している。
「日本国内の合宿に呼んでしまうと、メディアもファンも騒ぎ過ぎてチームが“変な空気”になってしまう。彼を呼ぶのは誰も取材に来ないような海外遠征の時にしようと思っている」
実際、今回のインドネシア遠征で初招集となったわけだが、森山監督の意に反して遠征には複数のテレビ局が帯同。ある民放局では看板番組で「久保特集」まで組む予定で、指揮官が危惧していた以上の大きな喧騒になりそうだ。この事態を受け、日本協会は個別取材に規制をかける旨を伝える異例のプレスリリースを出したほどだ。
日本サッカー界のみならず日本社会に停滞感があるなかで、“英雄待望論”が13歳の少年に集まっているということだろうか。代表のチーム作りという意味でも、一選手が過剰にフォーカスされてしまう状況は好ましくない。
もちろん、実際に試合で活躍した時にそれを取り上げるのは良いとして、この流れではそうもならないのではないか。久保はJアカデミーへの移籍が濃厚(※FC東京U-15むさしへの加入が決定)となっているが、思春期真っ盛りの時期に環境が激変するだけでも難しいもの。それにこの喧騒が重なるようでは彼のためにならない。ここは報道側に「大人の自制心」を望みたい。
文:川端暁彦(サッカーライター)
PROFILE くぼ・たけふさ/ 01年6月4日生まれ、神奈川県出身。川崎の育成組織に在籍していた10年にバルセロナスクール選抜の一員としてベルギーで開催された国際大会でMVPを獲得。11年8月に下部組織(カンテラ)の入団テストに合格し、日本人として初めてバルセロナと契約した。下部組織での活躍ぶりから、今後の成長が期待されていたが、14年に同クラブの未成年選手の登録違反が発覚。その対象に含まれていたためFIFAから今後4年間の公式戦出場禁止を言い渡され、退団と帰国を決断した。