連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】ふたりのブラジル人監督が示唆したサッカーの真理

カテゴリ:Jリーグ

熊崎敬

2015年04月26日

もっと情熱的に生きなければ、微妙な判定は見逃される。

もっと情熱的に――。神戸戦後のトニーニョ・セレーゾ監督の言葉には、経験豊富な指揮官ならではの見解が詰まっていた。 写真:徳原隆元

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 自信をのぞかせるネルシーニョ監督とは反対に、敗れた鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督は次々と課題を挙げていった。
 
「今までの失点の大半は組織ではなく、個人のミス。CBは若く、駆け引きや勝負の哲学に欠けるが、今の人材で改善していくしかない」
 
「(ACLで)長距離移動をしたばかりのため、抑え気味に入ったが、先制されてプランが崩れた。後半はギアを上げたが、いくつかのポジションで足が止まり、精度が落ちた」
 
 いくつか挙げられた課題のなかで、「こういう見方もあるのか」と私が気づかされた言葉があった。それは83分のシーンについてだ。
 
 同点を狙う鹿島は右サイドから侵入、金崎が至近距離から押し込み、ボールはラインを割ったかに見えたが、ゴールは認められなかった。この場面についてトニーニョ・セレーゾ監督は、次のように語ったのだ。
 
「入ったのか入っていないのか、僕があれこれ語っても仕方がない。それはチームの然るべき立場の人が対応してくれると思う。ただ、あの場面で一番残念だったのは、選手たちが大喜びしなかったことだ」
 
 ラインを割ったかどうかは分からなくても、みんなで狂喜して既成事実にしてしまえば、審判もゴールを認めざるを得なくなるはずだ――。本気で勝ちたいなら、頭を使って駆け引きしろとトニーニョ・セレーゾ監督は言いたいのだ。
 
 それもまたホームアドバンテージのひとつ。経験豊富な指揮官ならではの考え方だ。
 
 敗軍の将は寂しそうな表情で続けた。
 
「ゴールが決まったと大喜びしないのは、情熱的に生きていないからだろうか。私の目には、選手たちが日程に従ってサッカーをしているだけのように見えるんだ。
 
 今日は対戦相手が球際に強く来たが、タックルには正当なものと、反則気味のものがある。でも、ウチの選手は反則気味のタックルを受けても文句を言わない。アピールもしない。そういう時は審判に、『これは違うよ』と話し合いをしながら試合を進めるべきなんだよ。議論すべきところはすべきであって、そうしないとミスが見逃されることになる」
 
 ブラジル人選手は審判への文句がとても多いが、ブラジル人に言わせれば、あれは文句ではなく注文であり、話し合いなのだ。
 
「これはファウルじゃないですか?」
「もう3回目ですよ」
 
 そんなふうに注文をつけることで、流れを自分たちに引き寄せるのだ。
 
 日本人選手たちは、こういうことをあまりしない。それはトニーニョ・セレーゾ監督が言うように、私たちが本気でサッカーに向き合っていないからかもしれない。

取材・文:熊崎 敬
 
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