【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の十四「融通無碍の境地」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年04月16日

今季のイニエスタは批判の的にもなったが…。

今季は「精彩を欠いている」と批判もされたが、状況判断やプレービジョンに衰えはない。スター揃いのバルセロナにおいて、代えの利かない選手だ。(C) Reuters/AFLO

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 イニエスタは勝ち負けよりも、ナルシズムよりも、あるいは富よりも、ひたすらプレーそのものに神経を研ぎ澄ませてきた。ファン・ロマン・リケルメ、ロナウジーニョ、デコ、シャビ・エルナンデス……、ポジションの重なる名選手とのプレーを重ねながら、その深淵を深めていった。彼はやがて、世界最高のフットボーラーとなっている。
 
 今シーズンのイニエスタは、「精彩を欠いている」と一部で批判されている。「フォア・ザ・チームの意識ばかりが強く、衰えを隠せない。彼の時代は終わったのでは」とこき下ろす連中もいる。
 
 かつて魅せられた筆者は、その意見には同調できない。
 
「魔方陣」
 
 そう題された一枚の写真によって、イニエスタのプレーは象徴されることがしばしばある。4、5人に囲まれながら、涼しげな顔でボールをキープし、軽々とチャンスを作り出してしまう。ひとり対多数の形勢不利であっても、いや多数相手であるからこそ、動きのなかで必ず生じるわずかな隙を見つけ出せる。言葉にすれば簡単なことだが、とんでもない次元の話だ。
 
 神託を受けたようなイニエスタの言葉は、今でも忘れられない。
 
「日常で煩わしいことがあっても、ピッチでみんなとボールを蹴っていれば、だんだん自分がリセットされていくのさ。いつの間にか、とても楽しい気分になっている。フットボールが自分の気持ちまで変えてくれる。素晴らしいギフトをもらった気分でなにかを返さないといけない使命感はあるけど、緊張することはないよ。だって、わくわくする気持ちが自分を解き放ってくれると信じているから」
 
 佳境の欧州フットボール戦線、イニエスタは「融通無碍」の境地に入るか。
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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