山中：むしろゴールを決めたタウンゼントの方が光っていた。彼が脚光を浴びたのは実に久しぶりで。
 
田邊：さっき話に出た、ブラジル大会直前の確変以来でしょ。
 
山中：他に印象に残ったのは、エバートンのロス・バークリーくらいかな。
 
田邊：イタリア戦の前に、あれだけ勘違いした発言をしていたわけだから、恥をかかなくてよかったのかも。『ミラー』の見出しは強烈だったなぁ。「俺はストライカーだ！」
 
山中：でも伸び悩んでますよね。イタリア戦ではインパクトを残したけど、これまでの代表の試合でも、ことごとく評判倒れに終わってきた。プレミアでも今シーズンは調子の波が激しくて、調子の上がらないエバートンの象徴になっている。
 
田邊：かつてのルーニーのように、イングランド代表を担う次代のスター誕生という感じには、なかなかならないですね。
 
山中：そう。選手層が少しずつ若返ってきているのは事実でも、数年前にドイツでエジルあたりが一気に頭角を現わした時のようなインパクトはない。ジョーンズやスモーリングもしかりで、結局はクラブチームでも絶対的なチームの主軸になりきれていないわけだから。
 
田邊：ユナイテッドの92年FAユースカップ組のようなケースは例外としても、プレミア全体で、活きのいい若手がまだまだ少ないかなと。
 
山中：うちのところもそうですよ。最近のチェルシーは、ユースのFAカップで連続して決勝に進出しているのに、１軍にまで上がってくる選手がいない。もちろん、あれだけの面子の中に割って入るのは簡単じゃないにしても、１軍と２軍にはまだまだ開きがある。現地では「ブラックホール」と呼ばれてます。
 
田邊：育成がうまくいっていないですよね。イングランドのFAはユースの育成制度をもう一度立ち上げ直して、2012年に「セント・ジョージズ・パーク（トレセン）」を作っている。でも成果が出てくるのは、もうしばらく先になりそうな感じで。しかも監督に関しては、選手以上に新たな世代が育ってきていない。
 
山中：そもそも代表監督は、今年68歳のホジソンですからね。化石時代のサッカーはやらなくなったにしても、いきなり別人みたいになって、ばっと試合の流れを変えられる采配ができるようになるわけじゃないし。
 
田邊：それこそモウリーニョ待望論なんかが、いつ再燃してもおかしくない状況が続いている。
 
山中：ルーニーやスモーリングあたりは、ホジソン続投を望んでいるというコメントを出したりするんですけど、『テレグラフ』のヘンリー・ウィンターや『ミラー』のマーティン・サミュエルのような発言力のある記者は、無敗が続いているからといって騒ぎすぎるなと書いている。EURO2016の予選はこのまま突破できても、本大会で結果が出なかったら、そのままさよならしなさいよと。
 
田邊：でも次に誰がいいかとなると、イングランド人では誰もいないから、結局、カペッッロが監督に就任した頃と似たような名前が出てきてしまう。時計の針が進んでいないというか、イングランド代表は、何年かおきに必ず話が振り出しに戻ってくる、双六みたいなチームになっているよね。
 
山中：10年前に登場したルーニーが、いまだに大エースなのと一緒。いや下手をすると、20年以上も前のイメージを引きずっている可能性さえある。今回はトリノでの試合だったということで、90年のイタリアW杯の「ガッザの涙」まで紹介したメディアもありましたから。そこまで戻るかというか、イタリア＝いまだにガッザの涙しかないのかと。
 
田邊：『テレグラフ』よ、お前もか（笑）。それと今回、面白かったのは、わざわざ今頃イタリア戦なんてやらなくてもいいんじゃないみたいな厭戦ムードが、微妙に漂っていたところかな。
 
山中：そうそう。プレミアも大詰めに近づいているんだから、このタイミングでアウェーにいかなくともいいだろうと。しかもFAがチャーターした飛行機がメカニカルトラブルで飛べなくなって、トリノでもう一泊、無駄に過ごさなければならなくなっている。このダメダメ感もイングランドっぽい（笑）。各クラブの監督してみれば、たまったもんじゃない。