サッカー界ができることが何も「やらないこと」では寂しい
話は少し変わるが、僕の友人のお父さんに関するこんな話がある。
そのお父さんは有名なハーモニカ奏者で、97歳で亡くなってしまったのだが、年齢も80歳を過ぎた頃のエピソードだ。
世界的なハーモニカ奏者のお父さんは、ドイツへの演奏旅行の途中で風邪をひいて耳が聞こえなくてもハンディを吹き飛ばし演奏したという。
そんなお父さんがある年のクリスマスイブ、タクシーから降りた瞬間、バイクに跳ねられて病院に運ばれたという。翌日、ベッドで自分の顔を見ると、顔が紫色に腫れ上がってしまっていた。そんなお父さんの最初の言葉は「困ったことになった。年明け沖縄で演奏しないといけないんだけど、どうしよう」だったという。
周りはヒヤヒヤものだ。それどころではない容体のなかで出た言葉が、ハーモニカなのだ。ハーモニカの演奏を心配しているのだから、周りはお父さんの身体を心配する。高齢者でもあるし当然だろう。
さて、コロナ禍では全てを自粛すれば良いのではあろうか? 大好きな友達に会えず、学校は全て休校。人生を懸けて初めた事業も社会的距離を取るためにテレワークになる。
常連さんのために毎日、食材を仕入れてお客さんの喜ぶ顔が見たいという大将、女将さんの店も閉めなければいけなくなる。
サッカーはチームに感染者が出れば、当然ネガティブになる。サッカーのない生活は死んだも同然というファンに試合も見せられない。生命を懸けて闘っているつもりが練習まで出来なくなる。緊急事態宣言が出れば、市と県の施設は貸してももらえない。閉めることになる。
未来の夢に向かって頑張っている子どもたちの行き場もなく、「外で遊びなさい」が家でやれるリフティングの動画を一所懸命、ひとりで行なう。本来なら仲間とやるサッカーができない。もちろんサッカーだけではない。全てのスポーツカテゴリーの少年、少女がそうなっている。
「コロナよりサッカーが大事だ!」とは大きな声で言いたいが言えない。
ハーモニカ奏者のお父さんはもちろん医者に止められたと思うが、自分が大事故に遭っても、ハーモニカを演奏することが好きだ、大事だ、という生き方を97歳まで貫いた。そんなお父さんが羨ましく、好きだ。
もちろんコロナ対策をしなければいけない。コロナの予防をしっかり知り、忠実に意識しなければいけない。コロナは怖い、舐めてはいけない。だからこそプロフェッショナルとして、エンターテイナーとして、Jリーグ、サッカー界はどう判断するかが問われる。
Jリーグはどんな形になろうと、必ず「やる!」。それがプロの生き方だから。初めから何もやらないのは簡単だ。リスクを冒さない。
しかし今、医療に携わる人、食料品を売る人、TVで情報を発信してくれている人。たくさんの人がこんな状況でも身体を張ってくれている。
サッカー界ができることが何も「やらないこと」では寂しい。
「諦めが肝心」の意味は? これが人生だと思う。
2020年4月30日
三浦泰年
そのお父さんは有名なハーモニカ奏者で、97歳で亡くなってしまったのだが、年齢も80歳を過ぎた頃のエピソードだ。
世界的なハーモニカ奏者のお父さんは、ドイツへの演奏旅行の途中で風邪をひいて耳が聞こえなくてもハンディを吹き飛ばし演奏したという。
そんなお父さんがある年のクリスマスイブ、タクシーから降りた瞬間、バイクに跳ねられて病院に運ばれたという。翌日、ベッドで自分の顔を見ると、顔が紫色に腫れ上がってしまっていた。そんなお父さんの最初の言葉は「困ったことになった。年明け沖縄で演奏しないといけないんだけど、どうしよう」だったという。
周りはヒヤヒヤものだ。それどころではない容体のなかで出た言葉が、ハーモニカなのだ。ハーモニカの演奏を心配しているのだから、周りはお父さんの身体を心配する。高齢者でもあるし当然だろう。
さて、コロナ禍では全てを自粛すれば良いのではあろうか? 大好きな友達に会えず、学校は全て休校。人生を懸けて初めた事業も社会的距離を取るためにテレワークになる。
常連さんのために毎日、食材を仕入れてお客さんの喜ぶ顔が見たいという大将、女将さんの店も閉めなければいけなくなる。
サッカーはチームに感染者が出れば、当然ネガティブになる。サッカーのない生活は死んだも同然というファンに試合も見せられない。生命を懸けて闘っているつもりが練習まで出来なくなる。緊急事態宣言が出れば、市と県の施設は貸してももらえない。閉めることになる。
未来の夢に向かって頑張っている子どもたちの行き場もなく、「外で遊びなさい」が家でやれるリフティングの動画を一所懸命、ひとりで行なう。本来なら仲間とやるサッカーができない。もちろんサッカーだけではない。全てのスポーツカテゴリーの少年、少女がそうなっている。
「コロナよりサッカーが大事だ!」とは大きな声で言いたいが言えない。
ハーモニカ奏者のお父さんはもちろん医者に止められたと思うが、自分が大事故に遭っても、ハーモニカを演奏することが好きだ、大事だ、という生き方を97歳まで貫いた。そんなお父さんが羨ましく、好きだ。
もちろんコロナ対策をしなければいけない。コロナの予防をしっかり知り、忠実に意識しなければいけない。コロナは怖い、舐めてはいけない。だからこそプロフェッショナルとして、エンターテイナーとして、Jリーグ、サッカー界はどう判断するかが問われる。
Jリーグはどんな形になろうと、必ず「やる!」。それがプロの生き方だから。初めから何もやらないのは簡単だ。リスクを冒さない。
しかし今、医療に携わる人、食料品を売る人、TVで情報を発信してくれている人。たくさんの人がこんな状況でも身体を張ってくれている。
サッカー界ができることが何も「やらないこと」では寂しい。
「諦めが肝心」の意味は? これが人生だと思う。
2020年4月30日
三浦泰年