一喜一憂しながら試合は終盤へ…
そんななかでも、ブナ・サールがPKをゲットし、マルセイユ側に同点への期待が大きく膨らむ場面があった。キッカーに指名されたのは、まだゴールしていないヴァランタン・ロンジエ。だが、ロンジエのシュートは、PKストッパーで知られるGKマイク・メニャンにあっけなく止められてしまう。
天国から地獄への転落だった。ロンジエの表情に苦渋が滲む。結局1-0のまま、マルセイユ・ファンはがっくりうなだれ、「パイエットがいないとひとつ決められないんだ」と吐き捨てた。
「これでついにリーグ無敗記録もストップ……」
ヴィラス・ボアス監督が動いたのはその直後だった。64分に右SBの酒井宏樹を下げ、たった19歳のマルレー・アケを投入したのだ。攻撃開始のサインだが、ここでもファンは、「投入できるアタッカーがアケしかいない」と溜息をついただろう。中継のアナウンサーも、しきりに「他に選択肢がない」ことを解説する。これでサールの位置が下がり、サールの位置にジェルマンが移動した。
ところが67分、奇跡が起こる。何とモルガン・サンソンのCKにそのジェルマンがヘッドで当てる。ボールは空中ビリヤードのように、リール選手2人の頭に当たりながらネットへ吸い込まれた(1-1)。
天国から地獄への転落だった。ロンジエの表情に苦渋が滲む。結局1-0のまま、マルセイユ・ファンはがっくりうなだれ、「パイエットがいないとひとつ決められないんだ」と吐き捨てた。
「これでついにリーグ無敗記録もストップ……」
ヴィラス・ボアス監督が動いたのはその直後だった。64分に右SBの酒井宏樹を下げ、たった19歳のマルレー・アケを投入したのだ。攻撃開始のサインだが、ここでもファンは、「投入できるアタッカーがアケしかいない」と溜息をついただろう。中継のアナウンサーも、しきりに「他に選択肢がない」ことを解説する。これでサールの位置が下がり、サールの位置にジェルマンが移動した。
ところが67分、奇跡が起こる。何とモルガン・サンソンのCKにそのジェルマンがヘッドで当てる。ボールは空中ビリヤードのように、リール選手2人の頭に当たりながらネットへ吸い込まれた(1-1)。
続く69分、今度はアケの好パスを受けたジェルマンがゴール前へ必死にクロスを上げる。そこにベネデットが飛び込んで突き刺したのだ(1-2)。
たった3分間での大逆転。リールはこれでノックアウトされた。
勝利の瞬間、マルセイユは、まるで優勝でもしたかのように狂喜乱舞した。
ステーブ・マンダンダは地面に向かってガッツポーズを3回突きつけ、監督と選手たちは次々に抱き合い、PKを失敗したロンジエはみなにいじられて笑顔をこぼし、気づけば敵地スタジアムがマルセイユ・ファンだらけになっていた。
選手たちはファンの前で踊り、拳を突き上げた。勝点3を積み上げ、リーグ2位という地位を確固たるものにし、いよいよチャンピオンズ・リーグ(CL)出場に接近したからである。
勝因はフィジカルではない。テクニックでもない。だが監督の確固たる采配、マンダンダのリーダーシップによる鉄の守備力、そしてすさまじいチームの精神力があった。
ヴィラス・ボアス監督は試合後、「70分間守備的に戦って、20分間は攻撃的に戦ったみたい」と顔をほころばせた。
「ハーフタイムに1失点の状況下で何ができるかに言及した。サンソンのポジションを上げて、それがうまくいった。アケもこの結果を得る上で決定的だった。ビッグな選手になれると思う」
この”魔術”の効果で、ヴィラス・ボアス監督には、ますます注目が集まっている。穏やかな風貌だが、全てを先読みして万事に備える知的で柔軟な能力は、どこかディディエ・デシャンさえ彷彿させる。
しかも、試合の逆転劇だけでなく、延々とゴールできなかったベネデットとジェルマンの境遇も、たった3分で変えてしまった。すでにジョルダン・アマヴィやブナ・サールも蘇らせ、マネジメントには定評があったが、その魔術は全員を団結させている様子だ。
試合後のロッカールームでは、全員集合写真が撮影された。そこには全員の弾ける笑顔があった。酒井も監督の隣で爽やかに笑っていた。
「こんな陣容で25節に勝ち点52ポイントを重ねるなんて、桁外れのメンタルが必要というものだ」(『L’EQUIPE』本紙17日付社説)
チームにとって待望のCLが、そこまできている。
取材・文/結城麻里
text by Marie YUUKI