自身の弱点をきちんと把握している。
まずは経験について。本田はワールドカップでの敗因は身体能力以上に、頭の中にあったと言っている。まさにその通りだが、この考えには限界があると私は思う。
たしかに、頭がクリアだと的確な動きができる。しかし足が思い通りに動かなければ、頭の中はクリアにはならない。
そのことは、昨シーズンの本田自身が身を持って教えてくれたのではないだろうか。イタリアで戦う準備がきちんとできていなかった本田は、どんなに頭がクリアでも、経験があっても、良いプレーは見せられなかった。頭で正しい判断をしても、身体がそれを表現できるコンディションになかったからだ。
経験は大事だが、経験だけでは補いきれないものがあると、私はそう思う。ただ本田はウェブサイトで、若手に経験を積むために国外に出るべきだと助言している。この考えには私も賛成だ。
志を持った選手は、ヨーロッパで挑戦してみるべきだと思う。国内にいて、ただ拍手喝采を受けているだけでは、世界に通用する存在にはなれない。今シーズン、本田はこの複雑なイタリア・サッカー界で見事な活躍を演じている。
イタリアでの挑戦を決めた1年前の本田の決断は、まさに賭けのようなものだった。それがいまでは、すべてが現実のものとなっている。それもこれも、厳しい半年の経験があったからだ。セリエAという世界を知るために、この月日は必要不可欠なものだった。
その意味では、経験は非常に大事だろう。ただ、本田の経験はまだ十分とは言えない。イタリア・サッカーの深層を知るには、もう少しの時間が必要だと私は思う。
次に身体能力。これを課題に挙げた本田は、つまり自分の弱みをきちんと把握しているということだ。
もっとも、昨シーズンに比べて本田はこの点においても大きく前進している。いまの本田は敵と競り合い(以前も戦ってはいたのだが、勝つことは稀だった)、ボールを守ることも覚えた(これも5月まではよくボールを失っていた)。
なにより向上したのは、止まった状態からのスタートダッシュだ。本田はメネーズのような筋肉を持っていない。元々フィジカルのタイプが違うのだから仕方ないが、しかし筋力をもっと付けることはできるし、付けなくてはいけない。
走り出しから10メートルのスピードをさらに上げれば、1対1で困難に直面することはほぼなくなるはずだ。
最後の強みの最大化は、すなわち自分の優れている点にさらに磨きをかけるということだ。
本田は、自分の最大の強みは「左足」だと言っている。この点においては私がどうこう言う必要はないだろう。本田の左足は観る者を楽しませる。その動きは柔軟で危険でインテリジェンス、そこから繰り出されるボールが描く放物線は美しく、かつ効果的だ。
3つの目標の中では、やはりこの「強みの最大化」がもっとも達成できているだろう。残りの「経験」と「身体能力」については、まだもう少し伸ばす余地があると思う。潜在的な能力から言えば、70パーセントの達成率といったところか。
とにかく、アジアカップでの日本が、ワールドカップとは異なった結果を得ることを祈る。ミランにはモチベーションを高く保った本田が必要だし、本田にとってもそれは重要だろう。なぜなら、帰ってきた本田には、いままで以上の厳しい競争が待っているからだ。
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト)
協力・翻訳:利根川晶子
Marco PASOTTO/Gazzetta dello Sport
マルコ・パソット
1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。
たしかに、頭がクリアだと的確な動きができる。しかし足が思い通りに動かなければ、頭の中はクリアにはならない。
そのことは、昨シーズンの本田自身が身を持って教えてくれたのではないだろうか。イタリアで戦う準備がきちんとできていなかった本田は、どんなに頭がクリアでも、経験があっても、良いプレーは見せられなかった。頭で正しい判断をしても、身体がそれを表現できるコンディションになかったからだ。
経験は大事だが、経験だけでは補いきれないものがあると、私はそう思う。ただ本田はウェブサイトで、若手に経験を積むために国外に出るべきだと助言している。この考えには私も賛成だ。
志を持った選手は、ヨーロッパで挑戦してみるべきだと思う。国内にいて、ただ拍手喝采を受けているだけでは、世界に通用する存在にはなれない。今シーズン、本田はこの複雑なイタリア・サッカー界で見事な活躍を演じている。
イタリアでの挑戦を決めた1年前の本田の決断は、まさに賭けのようなものだった。それがいまでは、すべてが現実のものとなっている。それもこれも、厳しい半年の経験があったからだ。セリエAという世界を知るために、この月日は必要不可欠なものだった。
その意味では、経験は非常に大事だろう。ただ、本田の経験はまだ十分とは言えない。イタリア・サッカーの深層を知るには、もう少しの時間が必要だと私は思う。
次に身体能力。これを課題に挙げた本田は、つまり自分の弱みをきちんと把握しているということだ。
もっとも、昨シーズンに比べて本田はこの点においても大きく前進している。いまの本田は敵と競り合い(以前も戦ってはいたのだが、勝つことは稀だった)、ボールを守ることも覚えた(これも5月まではよくボールを失っていた)。
なにより向上したのは、止まった状態からのスタートダッシュだ。本田はメネーズのような筋肉を持っていない。元々フィジカルのタイプが違うのだから仕方ないが、しかし筋力をもっと付けることはできるし、付けなくてはいけない。
走り出しから10メートルのスピードをさらに上げれば、1対1で困難に直面することはほぼなくなるはずだ。
最後の強みの最大化は、すなわち自分の優れている点にさらに磨きをかけるということだ。
本田は、自分の最大の強みは「左足」だと言っている。この点においては私がどうこう言う必要はないだろう。本田の左足は観る者を楽しませる。その動きは柔軟で危険でインテリジェンス、そこから繰り出されるボールが描く放物線は美しく、かつ効果的だ。
3つの目標の中では、やはりこの「強みの最大化」がもっとも達成できているだろう。残りの「経験」と「身体能力」については、まだもう少し伸ばす余地があると思う。潜在的な能力から言えば、70パーセントの達成率といったところか。
とにかく、アジアカップでの日本が、ワールドカップとは異なった結果を得ることを祈る。ミランにはモチベーションを高く保った本田が必要だし、本田にとってもそれは重要だろう。なぜなら、帰ってきた本田には、いままで以上の厳しい競争が待っているからだ。
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト)
協力・翻訳:利根川晶子
Marco PASOTTO/Gazzetta dello Sport
マルコ・パソット
1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。