その時のことを、ペペはまるで昨日の出来事のように話す。

「両親と一緒に紹介されて僕らは握手をした。すると彼は当時ニワトリのトサカのような髪形をしていた僕の頭をじっと見つめながら、30秒間握った手をまったく離さなかった。そしてこう言われたんだ。『その髪を切らない限り、ここで練習をすることを許可しない』とね。はじめは冗談かと思った。でも真剣な眼差しを見て、すぐに本気だと気が付いたんだ」

　それからすぐに髪を切り、ペペは気持ちを入れ替えてサッカー取り組んだ。それでもスーパーマーケットで万引きをして補導されるというトラブルを起こしたこともあったが、その時もブアザマは親身になって対応。いつしか彼は、ペペにとって「第２の父親」ともいえる重要な存在になった。
 

　もうその後はまさに快進撃だった。2014年８月、19歳でプロデビューを果たすと、その翌シーズン、３部のオルレアンへレンタルで移籍。１年間の武者修行で一回り成長して復帰すると、アンジェの主力として活躍する。そして17年夏、「一目惚れだった」と話すリールのルイス・カンポスSDの主導により、移籍金1000万ユーロ（約13億円）で同クラブに移籍した。

　その新天地でも元バルサの副会長で現在はリールのゼネラル・ディレクターを務めるマルク・イングラが「そのタレントとメンタルタフネスで、短期間の間にロッカールームのリーダーになった」と証言するように、エースとしてチームを牽引し続けた。

　新天地はヨーロッパを代表するビッグクラブ、アーセナル。「憧れの存在」と語るディディエ・ドログバとリオネル・メッシを目標に、これまでの様々な経験を糧に二コラ・ペペの新たなる挑戦が始まる――。

文●ジョルディ・キシャーノ（エル・パイス紙）
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。