レジェンドの軌跡 THE LEGEND STORY――第48回・ガスコイン(元イングランド代表)

カテゴリ:ワールド

サッカーダイジェストWeb編集部

2019年05月04日

90年W杯とEURO92で残したハイライトシーン

 尻つぼみ状態でカルチョの国を後にした「ガッザ」の新天地は、スコットランド。95年7月に名門レンジャーズ加入を発表した彼は、1年目で国内二冠に貢献する。その長いキャリアにおいて、リーグ制覇は初めてのことだった。

 個人では、28試合でキャリアハイの14ゴールを挙げ、また得意の正確なパスも冴え渡った。このシーズンのベストプレーヤーにも選出された彼の復調は、ビッグイベントを目前に控えた母国の代表チームにも、好影響を与えることとなった。

 ここで時計の針を1988年まで戻すと、ガスコインはこの年の9月14日、親善試合のデンマーク戦でイングランド代表のユニホームの袖に初めて腕を通した。U-21代表で12試合に出場するなど、年代別でも実績を積んでいた彼は、間もなく始まった90年イタリア・ワールドカップ予選でも存在感を示し、本大会のメンバーに名を連ねる。

 サルデーニャ島カリアリでのグループリーグ3試合において、ガスコインはいずれも先発出場を果たし、2戦目の大一番オランダ戦で良さを発揮すると、チームキャプテンだったMFブライアン・ロブソンが負傷離脱したエジプト戦では中盤の司令塔に君臨し、正確なFKからマーク・ライトの決勝ヘッドを引き出し、首位通過に母国を導いた。

 長年、中盤の創造性が欠けていた「スリーライオンズ」の悩みを解消させたガスコイン。そのプレーは代表、そしてトッテナムのレジェンドであるグレン・ホドルを彷彿とさせたが、偉大な先達よりも力感があり、よくボールを追うなど、時代に合った選手だった。

 ボビー・ロブソン監督の采配も的中し、大会屈指の好チームとなって決勝トーナメントに進出したイングランドは、1回戦で延長戦終了間際にデイビッド・プラットの芸術的なボレー弾で劇的勝利。ここでFKからアシストを記録したのは、もちろんガスコインだった。

 準々決勝で、この大会の主役とも言うべきカメルーンをシーソーゲームの末に下すと、イングランドは決勝進出を懸けて、西ドイツ(当時)と対戦。優勝候補の筆頭と目された相手との一戦は、しかしイングランドが優勢に試合を進める。

試合は延長戦にもつれ込み、98分、中盤をドリブルで突き進んだガスコインは、ボールを奪ったトーマス・ベルトルトに勢いのままスライディングタックルを仕掛けて倒してしまう。さほど悪質なプレーには見えなかったが、主審はイエローカードを提示した。

これで、勝っても累積警告により決勝でプレーすることはできなくなった彼が、試合中にもかかわらず、少年のような泣き顔を見せた場面は、今大会のベストゲームといわれたこの一戦での、ハイライトシーンのひとつともなった。

 結局、PK戦の末に敗れ、最終的に4位入賞を果たしたイングランド。2年後のEURO1992では、前述の通り膝に重傷を負ったガスコインを欠くなど、戦力不足の状態で臨んで無残なグループリーグ敗退。さらに94年アメリカW杯では、74年西ドイツ大会以来となる予選敗退の憂き目に遭った。
 
 低迷の時期を経て、迎えた96年のEUROは準決勝まで駒を進めたが、結果は90年W杯同様に準決勝でドイツにPK戦で敗北。自国開催ということで優勝が至上命令とされていたことを考えれば、イングランドにとっては失意の大会と言えないこともないが、ここでサッカー史に残るスーパーゴールが生まれた。

 これを決めたのが、レンジャーズで充実の時を過ごして大会に臨んだガスコインだ。グループリーグのスコットランド戦、67分にダレン・アンダートンの縦パスをペナルティーエリア手前で受けると巧みにボールを浮かせ、寄せて来たCBコリン・ヘンドリーの頭上を抜き、落ち際をダイレクトボレーで叩いてゴールネットを揺らし、貴重な追加点をもたらした。

創造性、ボール捌き、判断力と、「ガッザ」の良さが十分に発揮された、そのキャリアを語る上では絶対に忘れることのできない、鮮やかで爽快な一撃だった。

 しかし、これが彼にとっては大舞台での最後の輝きとなった。その後も、代表では最大のチャンスメーカーとして98年フランスW杯予選でもプレーし、本大会出場に貢献したが、ホドル監督によって最終メンバーから外れたことで怒り狂い、そして悲嘆の涙に暮れたのだ。57試合出場10得点。これが、代表での最終成績となった。

 クラブに話を戻すと、97年にレンジャーズでリーグ連覇を果たすも、翌シーズンはピッチ内外での様々なトラブルに見舞われて調子を落とし、アルコールや薬物に依存するようになる。98年からはミドルスブラ、エバートン、バーンリーと渡り歩くも、怪我もあって、コンスタントにプレーすることは困難な状況となった。

 2003年には、エクセター・シティの監督に名乗りを上げたかと思えば、中国の甘粛天馬に加入するも4試合に出場したところで退団。翌年に加入した、アルコール中毒のカウンセリングを受けていたアメリカの4部リーグのクラブ、ボストン・ユナイテッドが現役最後のクラブとなった。

 複雑な家庭に育ち、さらに友人の弟の交通事故死によるトラウマなど、幼少期から心に闇を抱えていたガスコイン。チームでの規律違反に始まり、アルコールや深刻な健康問題、鬱による自殺未遂、度重なる暴行事件と逮捕、さらには家庭崩壊、破産など、ネガティブなニュースばかりが、彼の元から発信されてきた。

 まさに“堕ちた”スーパースター。しかし彼は今、苦しみながらも「悪魔と手を切る」という言葉とともにアルコールからの脱却を宣言、闘病の日々を送っている。そして今年3月には、古巣トッテナムの新スタジアムでOBマッチに出場し、久々にプレーする姿を披露した。

 その身体は痩せ細り、一気に老けてしまった印象の「ガッザ」だが、世界中のサッカーファンの多くが今なお、愛嬌たっぷりの憎めない悪童にして、最高のエンターテイナーだった彼を愛し、その再起を応援し続けている。

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公式HP:http://www.pksc.jp/
公式twitter:@PocketSoccer_PR
 
App Storeからダウンロード
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