レジェンドの軌跡 THE LEGEND STORY――第48回・ガスコイン(元イングランド代表)

カテゴリ:ワールド

サッカーダイジェストWeb編集部

2019年05月04日

「本当にイングランド人なのか?」とファンも驚愕

見た目の印象とプレーが全く違うという奇異な存在だったガスコイン。写真はトッテナム時代。数々の問題を起こしたかと思えば、代表戦の国歌斉唱でテレビカメラを前に舌を見せるなど“イタズラ小僧”のような可愛い側面を見せ、一方で繊細なハートの持ち主で些細なことに傷つくなど、人間的にも幾つもの全く異なる面を併せ持っていた。 (C) REUTERS/AFLO

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 本誌ワールドサッカーダイジェストと大人気サッカーアプリゲーム・ポケサカとのコラボで毎月お送りしている「レジェンドの言魂」では、サッカー史を彩った偉大なるスーパースターが、自身の栄光に満ちたキャリアを回想しながら、現在のサッカー界にも貴重なアドバイスと激励を送っている。

 さて今回、サッカーダイジェストWebに登場するのは、その見た目からは想像できない華麗なテクニックと優れたチャンスメイク能力で多くのゴールを生み出した、イングランド・サッカーでは稀少なボールの魔術師、ポール・ガスコインだ。

 ピッチ上でのパフォーマンスだけでなく、その愛すべき人間性でも人々を魅了した、スキャンダラスで波乱に富んだキャリアを歩み続けた魅力溢れる偉人の軌跡を、ここで振り返ってみよう。

――◇――◇――

 ポール・ジョン・ガスコインがイングランド北部タイン・アンド・ウィアのゲーツヘッドで生を受けたのは、1967年5月27日のことだった。

 その名が、ビートルズのポール・マッカートニー、ジョン・ハリスンから頂戴したものであるのは有名な話だが、天は音楽ではなく、サッカーの才能をガスコインに与えた。

 その技術力は幼少期から注目を浴び、イプスウィッチ、ミドルスブラ、サウサンプトンの入団テストには様々な事情で落ちたものの、13歳の時、彼自身が大ファンだったニューカッスルの下部組織へ入団することに成功する。

 16歳の誕生日に練習生として契約を結び、ユースチームでプレーするようになると、太めの体型にもかかわらず、ドリブルをはじめとする優れたテクニックを披露して不可欠な存在となり、84年からはキャプテンを務め、翌年のユースリーグ制覇に貢献した。
 
 84-85シーズンからはトップチームにも帯同するようになっており、85年4月13日、フットボールリーグ(当時のトップリーグ)QPR戦でデビュー。17歳のガスコインが見せるスマートなテクニックは、当時、「キック&ラッシュ」のスタイルに慣れていた観客を驚かせ、人々はこの厳つい体躯の少年が「本当にイングランド人なのか?」と疑ったという。

 この年の誕生日に正式にプロとして2年契約を締結したガスコインは、翌シーズンには早くも主力としてリーグで31試合に出場。9月21日のオックスフォード戦で初ゴールを決めると、母国でのキャリアでは最多となる9得点を記録している。

 中堅クラブゆえにチームタイトルには恵まれなかったものの、その豊富な運動量とテクニック、そして前線の選手への決定的パスという武器に磨きをかけたガスコイン。「ガッザ」のニックネームで愛された若き司令塔は、4シーズン目にはリーグのベストヤングプレーヤーに選出された。

 稀代のテクニシャンの元には当然、他の強豪クラブからオファーが殺到。希望するリバプールからのものはなかったが、トッテナム、マンチェスター・ユナイテッドによる争奪戦が展開され、家族に自宅をプレゼントするなどの猛プッシュを仕掛けたとされる前者が、この逸材を手に入れた。

 ロンドンの強豪チームでは、ますますチャンスメイクの能力を高め、1年目はニューカッスル時代のチームメイトでもあったクリス・ワドルに、2年目からはバルセロナからイングランドに帰ってきたガリー・リネカーに多くの得点機を提供し、チームにゴールと勝利をもたらした。

 トップチームでの待望の初タイトル獲得は91年。FAカップ決勝、聖地ウェンブリーでノッティンガム・フォレストを延長戦の末に下しての戴冠だったが、この試合、ガスコインは17分で担架に乗ってピッチを後にしている。相手にファウルを仕掛けた際、自らの右膝靭帯が断裂したのだ。

 この重傷により、6月のキリンカップ(他に日本代表、ヴァスコ・ダ・ガマ、タイ代表が出場)遠征メンバーからも外れ、1年半近くの年月を治療とリハビリに費やすこととなったガスコイン。これ以降、彼は本来のプレーを取り戻すことはなかったと見ている者も少なくない……。

 リハビリ期間中の92年春にセリエAのラツィオ移籍が決定。本来なら91年にはローマの地を踏んでいたはずが、前述の怪我により、1年先送りでの国外初挑戦となった。

 ラツィアーレから「新しいマラドーナ」との期待を持って迎えられたガスコインは、リーグ22試合出場4得点を記録。うち1点が宿敵ローマとのダービーマッチでのものだったことで、早くも新天地のファンの心を掴み、またチームがこのシーズン、実に14年ぶりにローマより上の順位(5位)でフィニッシュしたこともまた、彼への印象を良くした。

 ラツィオは翌シーズン、さらに4位という好成績を挙げるが(ローマは7位)、ガスコインは体重の増加をディノ・ゾフに咎められてトップチームから外されたこともあり、17試合の出場に止まる。この頃には、92年に彼の移籍を喜んだファンのなかに「サッカー界最大の無駄遣いだった」と考えを翻す者も少なくなかった。

 そして94年春、練習中に右足を骨折。あのFAカップ決勝同様、自らタックルを仕掛けた際の負傷だった(相手はデビュー2年目だった、あのアレッサンドロ・ネスタだ)。これで94-95シーズンを棒に振り、イタリアでのキャリアは幕を閉じた。
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