実験は成功? イニエスタがJリーグの"ピンボールサッカー"に乗っかったワケ

カテゴリ:Jリーグ

吉田治良

2018年08月01日

初スタメンでトライした実験で、彼が得たものは少なくなかったはずだ

イニエスタの今後の課題は、「味方を使う」だけでなく「味方に使われる」プレーをいかに増やしていくかだろう。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 決勝トーナメント1回戦、1000本以上のパスを交換しながら延長PK戦の末に敗れたロシア戦の教訓は、間違いなくイニエスタの脳裏に深く刻まれているはずだ。意図のないパスを無駄につなぐことの虚無感と、ポゼッションに縦の速さを融合させる必要性を、改めて痛感したに違いない。
 
 だからこその実験だった。
 
 24分、自陣でティーラトンが奪ったボールをイニエスタが引いて受け、ダイレクトでウェリントンに叩いてセンターライン付近でリターンをもらう。そこからドリブルで持ち上がり、中央に走り込んだ増山朝陽にラストパス──。結局シュートには至らなかったものの、あのスピーディな展開がイニエスタのひとつの理想ではなかったか。
 
 左SBのティーラトンとの連係はいまひとつで、とてもジョルディ・アルバとのコンビのようにはいかなかった。ただ、イニエスタの存在が図らずも囮となって、左サイドからいくつかチャンスが生まれたのも事実だ。
 
「(イニエスタに)預ければ必ず返ってくるという感覚を全員が持つこと」
 神戸を率いる吉田孝行監督はそう選手たちに話したらしいが、もちろんそうなれば、イニエスタにパスが入るところを相手DFも狙ってくる。けれど、66分の増山の決勝ゴールは、それを逆手に取って生まれたものだった。あの場面では、最終ラインからイニエスタを飛ばして左ウイングの郷家友太に縦パスをつけた、CB渡部博文の判断を称えるべきだろう。
 
 これが来日わずか数日と考えれば、高く評価してしかるべきだ。連係が噛み合わず、危険な位置でボールを失うシーンもあったとはいえ、それでもボールコントロールの技術、状況判断のスピードは群を抜いていた。
 
 初スタメンでトライした実験で、彼が得たものは少なくなかったはずだ。
 今後の課題は、「味方を使う」だけでなく「味方に使われる」プレーをいかに増やしていくかだろう。ワンツーで自らがペナルティエリアに侵入し、マイナスのクロスを折り返す得意のパターンは、この柏戦では一度も見られなかった。
 
 家族を迎えるためスペインに一時帰国し、しばらくブランクが空いてしまうのが残念ではある。それでも、長くバルサでのイニエスタを見てきた者としては、まだ2試合とはいえ、彼がこの異国の地でも伸び伸びと、とても楽しそうにプレーしていることが、純粋に嬉しくてならない。再合流後も、きっと極上のエンターテインメントで我々を魅了してくれることだろう。
 
 柏戦に勝利した後、神戸サポーターが歌う「神戸讃歌」をチームメイトと肩を組んで聞きながら、頬を緩めていたイニエスタ。2万人の歌声は、カンプ・ノウの10万人のサポーターが歌う「イムノ」にも匹敵するほど、胸に響いたに違いない。
 
文●吉田治良(スポーツライター)


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