ひとつの時代が終わることを知りながら。
イニエスタは、タトゥーも入れず、ピアスも開けず、夜遊びもせず、家族との時間をなにより大切にしてきた。トップチームに上がっても、時間があるときはミニエスタディ(バルサBのホームスタジアム)へ後輩たちの試合をふらっと見に行き、自宅のプールにクラブのロゴを描かせるなど、みずからバルサの熱狂的なサポーターであることを公言してきた。そんな素顔のイニエスタを、サポーターは何年もの間見てきたのだ。
イニエスタが今シーズン限りで退団すると発表してからは、彼がピッチに立つたびに、「Iniesta, quédate(イニエスタ、残って)」のコールが、スタンドから飛んだ。
イニエスタが今シーズン限りで退団すると発表してからは、彼がピッチに立つたびに、「Iniesta, quédate(イニエスタ、残って)」のコールが、スタンドから飛んだ。
クラブに残って欲しいというサポーターの叫びは本物だった。だが同時に、彼らはわかっていた。これだけ待って、苦労して手に入れたポジションを、イニエスタ本人が手放そうとしている。その決断が、本人にとって容易なものではなかったことを、ずっとイニエスタを見てきたバルサのサポーターはわかっていた。
周囲の誘惑に負けることなく、「バルサ」というチームの中盤で生きる道を選んだイニエスタ。重い怪我や強力なライバルとの定位置争いを乗り越え、ようやく自分のものにしたその場所から、彼自身が動こうとしているのだ。
イニエスタがつねにバルサを愛し、そこで戦うことにこだわり続けてきたからこそ、サポーターは、大きな悲しみを胸に抱えながらも、われらがキャプテンを笑顔で送り出そうとしている。どんなに辛くとも、本人の決断に敬意を示し、彼と彼の家族に最高の未来が待っているように願うことが、サポーターとしてできる最後の務めだと言い聞かせながら。
バルサのサポーターは、これでひとつの時代が終わると認識している。新たなページを繰るには、イニエスタが去ったあとに残る空洞はあまりにも大きいのだ。
文●山本美智子(フリーランス)
周囲の誘惑に負けることなく、「バルサ」というチームの中盤で生きる道を選んだイニエスタ。重い怪我や強力なライバルとの定位置争いを乗り越え、ようやく自分のものにしたその場所から、彼自身が動こうとしているのだ。
イニエスタがつねにバルサを愛し、そこで戦うことにこだわり続けてきたからこそ、サポーターは、大きな悲しみを胸に抱えながらも、われらがキャプテンを笑顔で送り出そうとしている。どんなに辛くとも、本人の決断に敬意を示し、彼と彼の家族に最高の未来が待っているように願うことが、サポーターとしてできる最後の務めだと言い聞かせながら。
バルサのサポーターは、これでひとつの時代が終わると認識している。新たなページを繰るには、イニエスタが去ったあとに残る空洞はあまりにも大きいのだ。
文●山本美智子(フリーランス)