そしてやはり選手権を知り尽くしている。
「富山一は３試合目ですが、うちは２試合目です。富山一はおそらく最後に動きが止まるので、それまでは０-０で良いという話はしていました」
 
　今大会シードで２回戦からの出場というアドバンテージを存分に生かし、富山一の疲れが出てくるのを待ち、最後に仕留めれば良いと考えていたのだ。もちろん「PKの順番はもう考えていました」と、PK戦までもつれ込むケースへの備えもしていた。
 
　かくして後半アディショナルタイムのドラマは生まれた。結果的には相手が引いたことで、スペースの空いた中盤から打ったミドルシュートが起点となった。山田監督を信じて前橋育英の選手たちがやり続けたことが、最後に実を結んだと言える。
 
　山田監督もいろいろ手を打ったとはいえ、飯島のゴールは非常に嬉しかった様子で「飯島はあの場所にいるから良い選手なんです。それまではろくな仕事をやっていなくて、今日は決定的な場面も外して、あれを決めていれば楽だったのに……まあいつもなのですが、でもあそこにいるというのが凄い選手なんです」と、こぼれ球を確実に押し込んだ飯島に対し、冗談を交えながらもポジショニングのセンスの良さを誉めた。
 
　焦らず動じず、中盤でパスをつないで攻めるスタイルを貫き、勝利を引き寄せた山田監督。前回大会決勝の悔しさをバネに、今大会こそ優勝を目指し、まずは準々決勝・米子北戦に臨む。
 
取材・文●小林健志（フリーライター）