それに対し、前半の給水タイムにハリルホジッチ監督が本田選手と酒井宏選手を呼び、本田選手がついていくのか、酒井宏選手がスライドするのか、アドナン選手のマークを徹底するように指示を出していたように見えました。
そのことで、本田選手のポジションはやや下がった位置になり中盤にスペースが生まれるため、後半には原口選手のスタート位置も少し下げたように見えました。
左サイドを突破口としていたイラクの狙いは、日本の対応により消されました。前半のようにアドナン選手がフリーでボールを持つことはなくなりました。同時に、チャンスらしいチャンスもほとんどなくなりました。日本は全体が少し下がったように見える時間帯もありましたが、こうした対応の中では問題ない範囲だったと思います。
問題はやはりボールを握ってからにあったと思います。イラクに対して、どういうルートでボールを運べばいいか、選手たちのなかで共有されているように見えませんでした。
大迫選手や原口選手の個人での突破でチャンスを生み出す以外に生産性があったのは、吉田選手から本田選手への縦パスくらいでした。相手を動かすよりも相手への対応に頭を使うことが多くなり、徐々に傷口が深くなっていった印象です。
相手に対応し、相手の勢いを削いでいた時間帯に、相手を動かす道筋を見つけて、いくつか「嫌だな」と思わせるシーンが作れていたら。後半の戦い方が少しもったいなかったと思います。
サッカーにおいて、守備はボールを奪われた位置から始まり、攻撃はボールを奪った位置から始まります。相手に対応することで全体を下げざるをえなかった日本は、攻撃を低い位置から始めるしかなく、中盤で相手を動かす筋道を見つけられずに苦しみました。チーム全体で攻撃と守備のビジョンをつなぎ合わせることができず、一人一人の奮闘ぶりだけが目立ちました。
【著者プロフィール】
岩政大樹(いわまさ・だいき)/1982年1月30日、山口県出身。J1通算290試合・35得点。J2通算82試合・10得点。日本代表8試合・0得点/鹿島で不動のCBとして活躍し、2007年からJ1リーグ3連覇を達成。日本代表にも選出され、2010年の南アフリカW杯メンバーに選出された。2014年にはタイのBECテロ・サーサナに新天地を求め、翌2015年にはJ2岡山入り。岡山では2016年のプレーオフ決勝に導いた。今季から在籍する東京ユナイテッドFCでは、選手兼コーチを務める。