モダンではなく小さいが、それがいい。このクラブには魂がある。

昨年末に監督に就任した闘将トルステン・フリンクス(写真はマインツ戦勝利の後)。2年連続のトップリーグ残留への道はあまりに険しいが、20節にはドルトムントを下すなど、可能性は秘めている。 (C) Getty Images
ジョニーは昨年3月、26歳の若さで亡くなった。
追悼試合となったアウクスブルク戦、ゴール裏のサポーターは「ジョニー、君はもういない。だが、君の思いは残っている。俺たちは闘い続ける」と書かれた横断幕を掲げ、友との離別を悲しんだ。
「ジョニーがいなければ、自分たちはブンデスリーガについて口にすることはなかっただろう」
こう回顧したのは、シュスター元監督だ。
キャプテンのアイタチ・スルは、「ジョニーの存在が、僕ら、そしてクラブにとってどんな意味があるのかを知っている。ジョニーのためにも、目標を達成して見せる。彼のモットーは僕らの心を掴み、今も変わらない」と語った。
そしてダルムシュタットは、1部残留を成し遂げた。
先週末(3月11日)に行なわれたマインツ戦は、ジョニーの一周忌となる試合。絶対に負けるわけにはいかなかった。この日のために特製ユニホームが準備され、クラブ創立年にちなんで1898枚が売りに出されたが、24時間以内に完売した。
クラブ、ファン、選手、コーチングチーム、スタッフ。全員の思いはひとつ。そしてジョニーの精神が、クラブに力をもたらした。
立ち上がりからダルムシュタットは、マインツをあらゆる面で凌駕し、開始5分、マリオ・ヴランチッチのCKからキャプテンのスルが強烈なヘディングシュートを決めて、試合の流れを一気に引き寄せる。
スルは昨シーズン、DFながら7ゴールを挙げており、チームの得点源のひとつだったが、今シーズンはこれが最初のゴール。「ジョニーが僕らを助けてくれた」と明かす心境に、嘘偽りはなかった。
その後、シドニー・サムのPKで加点したチームは、マインツの反撃を1点に抑えて、見事に勝利を収めた。
ジョニーの父親マルティンさんは、「ジョニーはこの勝利をとても喜んでいることだろう」とコメントを残している。
ダルムシュタットは、小さなクラブだ。
1921年に作られたスタジアム「メルック=シュタディオン・アム・ベレンファルトル」は、ノスタルジーそのものといった様相であり、入場料も立見席が10ユーロ、指定席でも20ユーロ程度である。VIP席といった洒落たものはなく、外に特設テントがあるだけだ。
だが、それがいい。モダンなスタジアムはなくとも、ここには魂があるのだ。
現状は厳しい。24節終了時点でダルムシュタットは勝点15で最下位に沈み、2部3位との入れ替え戦に回る16位(ハンブルク)との勝点差は11。経営規模でも戦力面でも、他のクラブと大きな差があるのは確かだ。
だが、彼らにはそれでも、諦めずに闘い続ける理由がある。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/ドイツ・フライブルク在住の指導者。2009年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの研修を経て、フライブルガーFCでU-16やU-18の監督、FCアウゲンのU-19でヘッドコーチなどを歴任。2016-17シーズンからFCアウゲンのU-15で指揮を執る。1977年7月27日生まれ、秋田県出身。
追悼試合となったアウクスブルク戦、ゴール裏のサポーターは「ジョニー、君はもういない。だが、君の思いは残っている。俺たちは闘い続ける」と書かれた横断幕を掲げ、友との離別を悲しんだ。
「ジョニーがいなければ、自分たちはブンデスリーガについて口にすることはなかっただろう」
こう回顧したのは、シュスター元監督だ。
キャプテンのアイタチ・スルは、「ジョニーの存在が、僕ら、そしてクラブにとってどんな意味があるのかを知っている。ジョニーのためにも、目標を達成して見せる。彼のモットーは僕らの心を掴み、今も変わらない」と語った。
そしてダルムシュタットは、1部残留を成し遂げた。
先週末(3月11日)に行なわれたマインツ戦は、ジョニーの一周忌となる試合。絶対に負けるわけにはいかなかった。この日のために特製ユニホームが準備され、クラブ創立年にちなんで1898枚が売りに出されたが、24時間以内に完売した。
クラブ、ファン、選手、コーチングチーム、スタッフ。全員の思いはひとつ。そしてジョニーの精神が、クラブに力をもたらした。
立ち上がりからダルムシュタットは、マインツをあらゆる面で凌駕し、開始5分、マリオ・ヴランチッチのCKからキャプテンのスルが強烈なヘディングシュートを決めて、試合の流れを一気に引き寄せる。
スルは昨シーズン、DFながら7ゴールを挙げており、チームの得点源のひとつだったが、今シーズンはこれが最初のゴール。「ジョニーが僕らを助けてくれた」と明かす心境に、嘘偽りはなかった。
その後、シドニー・サムのPKで加点したチームは、マインツの反撃を1点に抑えて、見事に勝利を収めた。
ジョニーの父親マルティンさんは、「ジョニーはこの勝利をとても喜んでいることだろう」とコメントを残している。
ダルムシュタットは、小さなクラブだ。
1921年に作られたスタジアム「メルック=シュタディオン・アム・ベレンファルトル」は、ノスタルジーそのものといった様相であり、入場料も立見席が10ユーロ、指定席でも20ユーロ程度である。VIP席といった洒落たものはなく、外に特設テントがあるだけだ。
だが、それがいい。モダンなスタジアムはなくとも、ここには魂があるのだ。
現状は厳しい。24節終了時点でダルムシュタットは勝点15で最下位に沈み、2部3位との入れ替え戦に回る16位(ハンブルク)との勝点差は11。経営規模でも戦力面でも、他のクラブと大きな差があるのは確かだ。
だが、彼らにはそれでも、諦めずに闘い続ける理由がある。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/ドイツ・フライブルク在住の指導者。2009年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの研修を経て、フライブルガーFCでU-16やU-18の監督、FCアウゲンのU-19でヘッドコーチなどを歴任。2016-17シーズンからFCアウゲンのU-15で指揮を執る。1977年7月27日生まれ、秋田県出身。