溝渕雄志の最大の特徴が「負けず嫌い」の性格だ。そして、それはサッカーに限らない。高校時代は勉学の成績でも常に上位をキープし続けたという話もあるほどだ。
 
　もちろんピッチ上でもそれは顕著に現われる。負けた試合の後も決して弱音は吐かず、対峙した相手を「大したことはない」と言いのけることもあった。単なる強がりにしか聞こえないかもしれないが、彼から言わせると、それくらいの自信やメンタリティがなければプロではやっていけないとのことだ。
 
　大学４年時に千葉への加入内定が発表されてから、彼はひたすら「俺がジェフをJ１に上げる」と言い続けてきたが、こういう大きな言葉を口にするにも理由がある。
 
「自分が１枚のピースとしてというよりかは、早く主力として、ジェフの顔になれるという目標を持って１日目からやっていきたいので。それくらいの覚悟はあります。だからこそ、本当にJ１に上げたいと思っているから言葉にするし、もちろんプレーでも見せなければいけない」
 
　昨年の全日本大学選手権で敗退が決まった後、目線を切り替えてこう口にしていたが、ここまでの言葉から分かるように、彼の“覚悟”は並大抵ではない。
 
　プレー面にも言及しておくと、とにかく衰え知らずの体力から成されるアップダウンの量と、１対１の強さが武器である。自身も「守備はできて当然」と語っていたが、確かにセットされた状態の１対１で安易に抜かれるようなシーンは見たことがない。
 
　攻撃面で１対１の突破力も強みであるが、プロ入り後はさらに質と強さを伸ばしていく必要がある。慶應大で上級生となった頃には相手から厳しいマークを付けられ、２人に対応されることは常であり、突破できない場面もあった。ただ、それでも彼の中では勝負をし続けることはやめたくないし、他の道に逃げることもしたくないと言う。その理由は、ある先輩の背中を見てきたからだ。
 
「よっち（武藤嘉紀）は厳しく付かれていても突破していたし、マンツーマンで付かれていてもそこを突破してシュートを決めていた。もちろん止められることもあったけど、それでも行くことを止めなかった先輩。ああいう人がプロで成功しているのを見ると、縦を読まれていても縦に行ける選手にならないといけない」
 
　意固地にも捉えられるが、それで武藤は道を切り開いていった。ポジションは異なれど、サッカーに対する真摯な姿勢や負けることを許さないマインドは両者に通ずるものがある。
 
　サポーターへの挨拶で溝渕は「たぎる闘志」を前面に出して戦い続けることを誓った。開幕スタメンが目標だと語ったが、それは簡単なことではないだろう。不遇に苦しむ可能性もある。ただ、それでもこの熱い魂を持つ彼の存在は必ず、長くJ２に浸かってしまったチームにとって、再建の大きな力になるはずだ。
 
取材・文：竹中玲央奈（フリーライター）