【仙台】さらば、クラブ史上最高のストライカー。ウイルソンは最後まで顔を上げていた

カテゴリ:Jリーグ

古田土恵介(サッカーダイジェスト)

2016年11月05日

「自分にとっても幸福な月日だった」

来日1年目で32試合・13得点。エースストライカーとしてチームを牽引し、クラブの優勝争いと史上最高位となるJ1リーグ2位に貢献した。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

画像を見る

 2011年3月11日、東北地方は未曽有の大震災に襲われた。絶望感のなかで、それでも仙台というクラブは復興のシンボルになろうと歩みを止めなかった。避難所生活を強いられた選手もいたが戦い続け、4位となった。
 
 その翌年だった。ブラジル人FWが中国の陝西宝栄から仙台に加入した。すると、32試合・13得点という成績を挙げるとともにベストイレブンにも選ばれた。クラブはJ1リーグで優勝争いを繰り広げ、勝点57を積み上げて2位に。もちろんクラブ最高成績である。
 
「1年目から活躍できて、チームにとっても、自分にとっても幸福な月日だった。心から素晴らしいと思える5年間だったよ。残念ながら怪我で離脱してしまった時もあったが、出場した試合では全力を尽くしたつもりだ。
 
 サポーターはそれを感じてくれていたと思う。いつも大きな声援を送ってくれ、自分をリスペクトしてくれていると感じて、ピッチでは戦えていた。
 
 最後に、いつまでも終わらないんじゃないかというくらい長い時間、チャントを歌ってくれた。感動したよ。頑張って堪えたけど、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。ハッキリと自分のチャントを聞けて、これはずっと自分の中に残り続ける」
 
 ラグビーの元ニュージーランド代表で世界的な名選手としてならした故ジョナ・ロムー氏はこんな言葉を残している。
 
「ニュージーランドにも罰走のような練習がありました。何十回もグラウンドを往復させられる。タイムを切れなければさらに増える。もう足も動かない。頭は下がる。
 
 でも、ふと両脇を見ると仲間も同じように走っている。こいつらが一緒なら乗り切れると思える。窮地に立たされれば人間の本当の姿もわかります」
 
 ウイルソンは、ある意味で復興の光だった。前に進むのも厳しい状況が襲い掛かってくる、下ばかりを見たくなる。そんな時にサッカーを見れば、仙台が勝っている。ウイルソンが躍動している。
 
 サポーターが「仙台がいれば」と腹の奥底から声援を送ったように、クラブも選手も「サポーターがいれば」と最後の最後までボールを追った。みんなが、「一緒なら乗り越えられる」と、あの時に考えていたはずだ。

Jリーグアウォーズではベストイレブンを受賞。G大阪の遠藤保仁や広島の青山敏弘ら、錚々たるメンバーと肩を並べた。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

画像を見る

【関連記事】
泣くことすらできない病… 森﨑浩司の凄絶なサッカー人生に恩師ミシャはどう寄り添ったのか?
森﨑浩司の引退に元チームメイトの李漢宰も涙。“戦友”の壮絶なサッカー人生に馳せる想いとは?
森﨑浩司が兄・和幸に送った最大の賛辞――「お前には全然追いつけなかった。昔も今も最高の選手は…」|引退セレモニー全文
大久保も感謝する風間八宏の教え。プロ選手にも目から鱗だった「フリーの定義」とは?
【セルジオ越後】“5大会ぶり”に惑わされてはいけない。今のU-19代表に、俊輔や小野、香川はいるの?

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト なでしこJに続け!
    4月10日発売
    U-23日本代表
    パリ五輪最終予選
    展望&ガイド
    熾烈なバトルを総力特集
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト ガンナーズを一大特集!
    5月2日発売
    プレミア制覇なるか!?
    進化の最終フェーズへ
    アーセナル
    最強化計画
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ