馴染めずにいた初めての日本代表合宿だったが、大きな気づきを与えてくれた先輩がいた。尊敬する選手のひとりだった中村憲剛からかけられた言葉は、今でも忘れられないという。

「中村憲剛さんが僕のところに来て、『山田くんって動きながらのボールコントロールがめちゃくちゃ上手だよね』って言ってくれたのはすごく自信になったし、（自身の長所に）気が付かせてもらえた」

　さらに岡田監督も、ミーティングでプレーを高く評価してくれたと明かす。

「『山田は攻守のスイッチを入れられるから、みんなこういうプレーをしてくれ』とみんなの前で言ってくれて。自分でもそれに気づいてなかったので、岡田さんが言語化してくれて『あ、自分ってそういうプレーができるんだ』という気づきを与えてくれたことはすごく嬉しかったですね」

　偉大な選手や監督からの言葉は大きな自信になった。しかし同時に、代表のレベルの高さを痛感させられる日々でもあった。

「練習の強度の高さが、もう１段も２段も上で。練習では何もできなかった、というのが僕の率直な感想です」

　最高峰のレベルを肌で感じた経験は、喜びと悔しさとともに深く刻み込まれた。
 

　このまま順調にキャリアを重ねるかに見えたが、その代表活動で右臀部を痛めて代表を離脱。2010年のアジアカップ予選でもイエメン戦の早い時間帯に負傷交代し、悔しさの残る結果に。それ以降、日本代表に招集されることはなかった。

　その後、浦和でも度々、怪我で戦列を離れることが多かった。それでも山田は、「あの怪我がなかったら」と考えたことは今でもないという。

「（怪我をせず）あのままサッカー選手として成長していたとして、人間的にどうなっていたかなというのはすごく考える。僕が人間的に成長できたのって、正直（その後の移籍先である湘南ベルマーレで出会った監督）曺貴裁さんのところに行ってからかなと思うんです。怪我がなかったら、もしかしたらあの人のもとでサッカーをすることはなかったと思う。

　曺貴裁さんは選手一人ひとりにすごく愛情を持つ人。その愛情が僕に、“サッカーに本気になること”を気が付かせてくれたんです」

　サッカー人生の歯車を大きく変えた怪我。もちろん、もがき苦しんだが、今になって思えばマイナスな面だけではなかったと振り返る。

「（怪我がなければ）サッカー選手としては、もっと成功していたかもしれないですけど、どうだったのかな…。今のほうが、もしかしたら僕のことを本気で応援してくれてる人って多いんじゃないかなと思えるような気はしてます」

　苦難の経験を乗り越えたことで、人間的な成長を実感している。今だからこそ語れる言葉には、人間・山田直輝の深みが滲み出ていた。

取材・文●手塚集斗（サッカーダイジェストWeb編集部）

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