否定的な見解が聞かれるのはクラブ内だけではない。ヴィニシウスの周辺でも、PKの名手になることを新たな挑戦と位置づけ、努力していることを理解しながらも、失敗のショックを引きずり、その後何分間にわたってパフォーマンスが低下し、それがスタンドの不満をさらに煽っているといったマイナス面を指摘する声が出ている。

　このPKの迷路は、ヴィニシウスにとって奇妙なシーズンに新たな混乱を加える結果となっている。トニ・クロースやダニエル・カルバハルらチームリーダーが、クラブの後押しも受けてバロンドールを獲得するという大目標に向かって邁進している最中にドレッシングルームから姿を消したことは、彼の火山のような性格が制御不能になる頻度を高めることに繋がった。

　幾度もマドリーを救ってきた頼れるエースが、時に脱線事故の危険性をはらむ存在となってしまったのだ。今シーズン、ヴィニシウスは１試合平均で0.36枚のイエローカードを出されている。0.15枚だった2021-2022シーズンから0.30、0.32と年々上昇しており、今シーズンもその傾向が続いている。
 

　スタンドからのブーイングに加え、今シーズンは、ルカ・モドリッチやジュード・ベリンガムに守備で手を抜いていると叱責されたこともあった。

　しかしヴィニシウスの反骨精神は健在だ。レアル・ソシエダとのコパ・デル・レイ準決勝第２レグで、アンチェロッティ監督が交代させることをちらつかせると突然息を吹き返し、ベリンガムのゴールをアシストすると、その直後にもオーレリアン・チュアメニの得点に繋がるCKを獲得した。

　今シーズンここまで20ゴール・14アシストを記録。この得点とアシストをトータルして34というのは昨シーズン通しての数字と同じだ。CLは、ヴィニシウスが最も幸せを見出してきたコンペティションだ。

　16日、マドリーは０－３の完敗となった第１レグからの大逆転を目ざしてホームにアーセナルを迎える。

※数字はいずれも４月８日時点

文●ダビド・アルバレス（エル・パイス紙レアル・マドリー番）
翻訳●下村正幸

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