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英国、福岡、タイ、北九州、そしてベルギーへ…波瀾万丈キャリアを歩んだ日本人がアジア初の“世界最難関プロライセンス”を取得するまで【現地発】

カテゴリ:海外日本人

中田徹

2025年04月05日

目標の昇格を果たすも…過酷だったタイ2部クラブでの一年

英国ではブリックハウスの地元紙でその活躍ぶりを紹介された。

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 12月上旬、レセプションパーティーの場でナイジェル・アドキンス監督から「お前、もうそろそろビザが切れるな。ビザを申し込むのに肩書は何がいい?」と訊かれた。それは事実上、契約延長のオファーだった。しかし直後に指揮官がマウリシオ・ポチェティーノに代わったため、サウサンプトンを退団することになった。

「プレミアリーグは試合を決める差が本当にわずか。ポジショニングの10cmのズレがゴールに繋がる。そういうのはなかなか日本では見られない。試合のスピードの速さだけでなく、スタッフとしても日々の取り組みのスピード感だとか、プレッシャーを負いながらコーチ陣と監督が日々、活動をしていかないといけないのかとか、現場でないと見えないものがいっぱいありました」

 イギリスのビザが切れ、再び日本に帰った高野はアビスパ福岡に入った。仕事はマリヤン・プシュニク監督の通訳兼アシスタントだった。郷里のクラブで働く喜びに「自分の中で、身体の奥底深くからエネルギーが湧き出てくる」のを実感しながらタスクに打ち込んだ。

「私が地元のクラブに入って、家族、恩師、友人、知人が嬉しく思ってくれているのを見て、活力とか元気とか、そんな言葉では表現できないパワーが湧き出てきたのを感じた。そのパワーを地元に還元し、地域のパワーを循環させるような地域貢献をしたかった。だからスタジアムにお越しになったサポーターの方々、お客様、スポンサーの方々が喜んでいる姿を見て、ひと仕事を終えたホッとする一瞬があった。だから引き分けの試合でもハードワークして『よく頑張った』と拍手が沸いたときに『明日の月曜日から皆さんがパワーを発揮できるような力を起こすことができたかな。地元で働くというのはいいな』と思いました」

 アビスパ福岡で2年働いた後、「そろそろ監督をやりたい。A級ライセンスしかないけれど、どこでできるだろうか」と思っていたところ、知り合いの代理人がタイのクラブを紹介してくれた。BBCUという2部リーグのクラブを1部に上げるのが高野のミッションだった。「規律の高野」はタイでどのようなアプローチをしたのだろうか。

「タイの環境は緩いので、私が来る前は選手の到着が30分遅れることもあったらしい。しかしBBCUは、東大クラスの大学(チェラーロンコーン大学)のサッカー部が独立してプロになったので、オーナー、コーチ、選手には大学OBがたくさんいるんです。オーナーはしっかりした人で、とても規律的な人でした。タイ人から見る日本人は規律正しさのスタンダードが高いので、そういう仕事をしてくれる監督を雇いたいという意向のもと、代理人を通じて私が呼ばれました」

 オーナーはコーチに「選手の出席名簿を取るように」と命じ、遅刻した選手は給与がカットされるので、高野が特に何もしなくても練習時間に遅れることなく、むしろ早めに全員集まった。

「だけど取り組む姿勢は別物じゃないですか。特にリーグ戦で厳しくなってきたとき。選手の気持ちの中には『タイ的当たり前』『タイ的常識』があるので、僕が要求することに対して摩擦が生じることがあったんですね。それを解決するためには話し合いです。僕も妥協しながらも『ここはこうする』と通す。

 タイは年功序列の国。オーナー、強化部長の下にいたのがヘッドコーチで、僕の右腕でした。彼は元タイ代表の選手で人としてもしっかりしてました。彼が『僕も高野の考えに疑問が残る。でも高野がこうすると言った以上、やるしかない。やろう』と他のコーチを促し、そこから選手に伝わったのは大きかった。だから、最後の方で踏ん張ることができ、1部に昇格できました」
 
 オーナーや強化部長にスタメンや交代策を操作されることもあった。開幕戦直前、ロッカールームで選手が着替えているときに、オーナーから「右SBを代えろ」という指示が入った。高野は猛烈に反論したものの受け入れるしかなかった。

「試合中の選手交代もオーナーの意向がコーチ陣に渡っていた。だけどリーグ後半戦は『昇格したいんだったらここの采配は私に任せてくれ。別にクビになってもいい。しかしここで勝ちたいのなら、私の采配は間違いないから』という状況でした。それで勝ったから良かったものの、負けてたらクビが飛んでたかもしれない。本当によく昇格できました。

 私はタイのサッカーや指導環境、タイ文化や歴史、タイ人の思考の仕方などを深く勉強していたので、彼らが何を見ることができ、何が見えないか分かっていた。それも考慮しながらコーチたちと話し合って、全員で協力し合ったのが結果につながったと思います。コーチ、選手たちの理解を含めて、規律があったからこその昇格でした」

 新シーズンの編成のこと、オーナーの試合への関与のことなど、高野にとっては飲めないことも多くBBCUから1年で身を引いた。そして16年からギラヴァンツ北九州のアカデミーダイレクターに就任した。「お前、タイから戻ってきたのか。なら一緒にやろう」と誘ったのはアビスパ福岡時代の強化部長、野見山篤だった。

「結婚したばかりで、子どもも産まれるからご両親の近いところで働けたらいいね。カテゴリー(当時J3)とか給料とか云々ではなく、地元で働けることがありがたいね――と妻と話しました。妻は野見山さんと同じ嘉穂高校出身で、私にとっても彼女にとっても北九州は同じ福岡県ということで地元でした」

 ギラヴァンツ北九州での1年目の途中、突然、FAから高野宛にメールが届いた。そこには「あなたはプロライセンス受講資格があるので応募しませんか?」と書かれてあった。実はアビスパ福岡時代、「監督をやろうにもA級までしか持ってない。だけどプロライセンスを受講するハードルは高いし、お金が何百万円もかかってしまう」と悩んでいた。しかしBBCUの給料やボーナスなどで貯金ができていた。さらに妻も少しお金を工面してくれた。

「ギラヴァンツ北九州には『プロライセンスの受講資格ができたら行ってもいいですか?』とあらかじめ確認していました。イギリスを1回往復するのに30万円くらい。それを2年間にかけて8回。受講費が200万円。だから450万円くらいかかった。だけどUEFAのライセンスの中でもFAの資格は最高峰のレベルで、日本人はまだ誰も行ったことがない。

 450人の中から2次テストで36人まで絞られて、そこから27人まで絞られました。最終テストはセント・ジョージズパーク(FAナショナル・トレーニングセンター)に行って1泊2日で受けるんです。受付のところで名前を書いていたら、デカいやつが入ってきた。それがマンチェスター・ユナイテッドのキャプテンだったネマニャ・ヴィディッチだった。その後に来たのがニッキー・バット。『こういう人たちと受験するんだ。自分は恐ろしいところに来たな』と思ったらめちゃくちゃ脂汗をかいた。

 FAではオン・ザ・ピッチの戦術的な指導はA級ライセンスまでで全部終わらせるんです。プレミアリーグの監督はクラブの顔であるし、クラブの経営も左右するので、クラブの中のリーダーシップ、人のマネジメント、判断力を持たないといけない。戦術の授業では現在の試合を見ながら『これからの5年で戦術はどうなるか』というのを予測を建てながら、監督は活動していくことを学ぶ。

 コース中のディスカッションは『フットボール最前線の、先見性のある話』に及んでいくことが多かった。そこのディスカッションに貢献できない人は自然と話から置いていかれる。聞いた話によると、だからこそ最終テストでは頭の回転の速さ、記憶力、人間関係の構築力なども試されていたとのこと。受講生27人でのディスカッションは、進むテンポがすさまじく速く、一コマ50分だけでも頭が疲労困憊した。講義1回の滞在はおよそ2泊3日ぐらいの日程でしたが、とても濃かった」
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