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珍しきセカンドキャリア。“ケーキ”の名を持つ元GKが群馬とともに歩むメッセージ性に富んだ第2の挑戦

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2024年12月25日

原点にある“ゲームパティシエ”とのキャッチフレーズ

オリジナルのマフィンなどもプロデュース。様々なチャレンジに励んでいる。(C)SOCCER DIGEST

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 現役中から口下手な男だったという。黙々と目の前の課題と向き合う職人肌で、自らを磨いてきた。

 もっとも大きなキッカケは2022年の自身初の大怪我だった。膝の靭帯を損傷し、しかもチームにはかつて年度別代表の経験などもある櫛引政敏が加入したばかり。

 コロナ禍を経て、世の中の流れも大きく変わっていた。これまでに抱えていた不安がさらに増したのだ。

 元々はケーキの名を持つこともあって、サポーターから“ゲームパティシエ”とのキャッチフレーズを付けてもらい、妻の手作りチョコをもらうたびに、自身も菓子作りに興味が湧き、実際に趣味の範囲で作っていたという。「いつか仕事にできたらいいな」。おぼろげな想いは胸の奥底にはあった。

 そんな日々で、選手キャリアで最も引退を意識する瞬間が訪れたのである。もうなりふり構っている場合ではなかった。

「僕はどっちかというと、子どもの頃から引っ込み思案で、あまり目立ちたくないタイプ。選手の時も同じでした。だから恥ずかしさもあって、今もそうなんですが、なかなか表にアピールできない性格ではあるんです。

 でも20年、21年は群馬で試合に出させてもらってきたなかで、22年にクシ(櫛引)が加入して、その年の開幕戦もクシが先発した。そして僕はすぐに膝を怪我をしてしまった。それまで怪我なんてほぼなかったのに靭帯を損傷。断裂ではなくてよかったんですが、チームから離脱することになった。

 そこでまさに、引退という文字が頭をよぎったんです。だからこそ温めてきた想いを行動に移さなくちゃという考えが生まれました。これまでの自分だったら『どうしよう…』って思いながら静観していたはず。でも年齢も年齢で(当時36歳)、切羽詰まっていた部分があって、行動しなきゃって切り替わった瞬間だったんだと思います。今振り返ればもっと早く行動しておけばよかったとも思うんですけどね(笑)。

 地元の同級生らがやりたいことをやり始めたタイミングで、その辺りの刺激もありました。やっぱり会社に勤めていた友だちたちも30代中盤、後半になるにつれ独立したりするじゃないですか。だから焦りみたいなものもあったんです」

サポーターから愛された存在だった現役時代。感動的な横断幕も掲げられた。(C)SOCCER DIGEST

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 それでも当時はまだ現役の身だ。サッカーが大好きで、プロとしてサッカーを第一に考えるのは大前提として、現役中から他の分野へ挑戦することは反感を買うかもしれないという恐れがあった。それでも清水は力強く一歩を踏み出した。

「チョコレート作り、お菓子作りをやっていきたいと周りに伝えて、チョコをクラブのスポンサーの方々に配ったりしていました。こういうことをやっていきたいんだって発信するようにしたんです。そこで当たり前ですが、『やりたいことを自分の中に閉まっていても誰も分かってくれない』と気付きました。

 だからまず1回動いてみようと。それまではやっぱりサッカー選手がそれ以外のことをしていると、『サッカー頑張ってないんじゃないの』って、映っちゃうんじゃないかなという不安もありました。だから今の現役にも躊躇している選手っていると思うんですよね。『そんなことしているから勝てないんだ』と批判されちゃうんじゃないかと。それにチームメートの反応も心配でした。チーム最年長でもあったので。

 実際にそういう意見は必ず出てくるだろうなと想像していたので、僕もなかなか動けませんでした。でもサッカーに全力を注ぐのは当たり前として、少し空いた時間などに一度、こういうことをやりたいんだって動いた時に、多くの反響をいただけたんです。

 それこそ群馬のスポンサーであるカインズさん、ベイシアさんや、明治安田さんら様々な企業さんが興味を持ってくださった。さらにチームメート、メディアさんも興味を持ってくれた。手を差し伸べてくれる方の多さに、本当に衝撃を受けて、行動してみないと分からないんだな、行動しないと事が動かないんだなって実感しました。

 一歩踏み出してみる大切さですよね。そうすると自分が意図しないところにも話が広がったりしてくれる。不安を抱えたまま、何も動かなかったら結局何も進まない。だから僕もすごく勉強になりました」

 考えもなしに動けば良いというものではないだろう。動けば必ず壁にもぶつかる。それでも痛みは自らの糧にもなる。悩みながら悶々とした日々を過ごすのであれば、行動してみる。清水が示した背中は大きな勇気を与えてくれるものである。それこそ選手寿命は考えるよりも短い。それは私たちの人生にも同じことが言える。

「そりゃトッププレーヤーになって後の人生が困らないくらいの金額を稼げればいいですよ。でもみんながそうなれるわけではなく、いろんなキャリアを歩んでいる選手がいる。そのなかで、ある程度、自分のやりたいことがはっきりしているのであれば、しっかり向き合い、行動に移せるなら移してみる。そうやって現役生活を過ごすのと、悩みながら過ごすのとでは、選手としてのパフォーマンスも変わってくると思うんです。

 サッカーに集中しながらも、セカンドキャリアの不安も少なくなく臨むのと、将来への大きな憂いを持ちながら過ごすのでは、精神的にも大きく異なる。やっぱりスポーツってメンタルの部分が結構な割合を占めていますから。そういう不安を取り除くことによって、プレーも良い方向に行くんじゃないかなって感じました。

 今回僕の経緯、カインズさんや様々なスポンサーの方々に協力してもらったことが、ほかの選手たちに向けた実例になればよいとも思います。

 それにもし引退後の目標がない人でも、他分野の方や様々な企業の方と触れ合いながら、自分がどういうものに興味があり、どういうものが得意なのか知ることも大切だと思います。例えばザスパには、ザスパファームっていう選手とサポーターが一緒に農作業に挑戦する活動があるのですが、農業や種の販売などに興味を持ったり、新しい気付きがあるかもしれない。先の道が見えてくるかもしれません。

 Jリーグの選手会でも年金退職金制度の整備は課題として挙がり続けていますが、解決しないままです。選手会ではセカンドキャリアについても長年話し合われていますが、改善点は多い状況です。資格を取る時に資金などを支援してくれる制度などはありますが、自分で動いていかなくてはいけない状況でもありますから」

 では清水はそうしたなかで、具体的にどうやってクラブらの協力を得ながら、第2の挑戦へ歩を進めていったのか。

■プロフィール
しみず・けいき/1985年12月10日生まれ、群馬県出身。183㌢・75㌔。FC前橋Jrユースー前橋商業高-流通経済大-大宮-群馬-秋田-大宮-群馬。地元の群馬で2023年限りで現役を引退したGK。

(第2回に続く)

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

■「よろこびをしるす。」
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