ドイツの指導者のレベルをひと回りもふた回りも引き上げた。
ブンデスリーガでは優勝を成し遂げたが、チャンピオンズ・リーグでは3年連続でベスト4敗退。議論の余地があるのは、3冠というミッションを達成できなかったグアルディオラへの評価だ。
結果だけ見れば、グアルディオラの3年間はたしかに失敗だったのかもしれない。実際、大衆紙『ビルト』が実施し10万人以上が参加した「グアルディオラ招聘は失敗だったのか?」というオンラインアンケートでは、「失敗だった」という回答が64%にのぼった。神経質で感情的なその振る舞いはときにファンの不安を募らせ、実験的かつ独創的な選手起用も理解を得られないことがしばしばあった。
それでもグアルディオラのサッカーは革命的で、もっと高く評価されるべきだろう。的確なポジショニングをベースとしたリズムカルなパス回し、1対1の優位性を活かすための効果的な展開、特定の個人に頼らないゲームコントロール、ポジションの枠に収まらないバリエーション豊富な選手個々の動き。どれだけ多くの指導者が、彼の影響を受けただろうか? ドイツの指導者のレベルをひと回りもふた回りも引き上げたくれたのは、間違いなくグアルディオラだった。
同業者の評価は高く、かつてバイエルンを率いた名将オットマー・ヒッツフェルトもこう賛辞を述べている。
「グアルディオラはフェアに評価されていない。彼はバイエルンとブンデスリーガのレベルを底上げした。チャンピオンズ・リーグで優勝したチームは大抵、緊張感やモチベーションを失ってしまうものだ。グアルディオラはそんなチームをハインケスから引き継ぎ、新しい刺激を与え、革新的なプレースタイルを植え付けた。優勝はできなかったけど、チャンピオンズ・リーグは3年連続でベスト4に進出している。センセーショナルな仕事だよ」
資金に恵まれ、あれだけのビッグネームを揃えれば、優勝できて当たり前。そんな声に対してもヒッツフェルトは真っ向から反論する。
「イングランドではレスターが優勝したよ。金さえあれば優勝も手にできるというのなら、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシーはどうなんだい?」
グアルディオラはあと数日でミュンヘンを去ることになる。すでにバイエルンは16-17シーズンに向けて動き出している。マッツ・フンメルスに加え、グアルディオラが「ヨーロッパでベストの若手のひとり」と絶賛するレナト・サンチェスの獲得が決定済みだ。
興味は「カルロ・アンチェロッティ新監督がどのようなチームを作るのか」に移りつつあるが、その前にシーズン最後のタイトルを懸けた重要な戦いが待っている。5月21日に開催されるDFBカップ決勝だ。相手は、宿敵ドルトムント。二強が激突するこの一戦を、ドイツ中のサッカーファンが心待ちにしている。
「最後に二冠を達成して、監督とお別れできたらいいね」
バイエルンの主将フィリップ・ラームはそう意気込みを語る。どういう結末になるにせよ、素晴らしいゲームになるのは間違いないだろう。
文:中野吉之伴
【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19(U-19の国内リーグ3部)でヘッドコーチを務める。77年7月27日生まれ、秋田県出身。
結果だけ見れば、グアルディオラの3年間はたしかに失敗だったのかもしれない。実際、大衆紙『ビルト』が実施し10万人以上が参加した「グアルディオラ招聘は失敗だったのか?」というオンラインアンケートでは、「失敗だった」という回答が64%にのぼった。神経質で感情的なその振る舞いはときにファンの不安を募らせ、実験的かつ独創的な選手起用も理解を得られないことがしばしばあった。
それでもグアルディオラのサッカーは革命的で、もっと高く評価されるべきだろう。的確なポジショニングをベースとしたリズムカルなパス回し、1対1の優位性を活かすための効果的な展開、特定の個人に頼らないゲームコントロール、ポジションの枠に収まらないバリエーション豊富な選手個々の動き。どれだけ多くの指導者が、彼の影響を受けただろうか? ドイツの指導者のレベルをひと回りもふた回りも引き上げたくれたのは、間違いなくグアルディオラだった。
同業者の評価は高く、かつてバイエルンを率いた名将オットマー・ヒッツフェルトもこう賛辞を述べている。
「グアルディオラはフェアに評価されていない。彼はバイエルンとブンデスリーガのレベルを底上げした。チャンピオンズ・リーグで優勝したチームは大抵、緊張感やモチベーションを失ってしまうものだ。グアルディオラはそんなチームをハインケスから引き継ぎ、新しい刺激を与え、革新的なプレースタイルを植え付けた。優勝はできなかったけど、チャンピオンズ・リーグは3年連続でベスト4に進出している。センセーショナルな仕事だよ」
資金に恵まれ、あれだけのビッグネームを揃えれば、優勝できて当たり前。そんな声に対してもヒッツフェルトは真っ向から反論する。
「イングランドではレスターが優勝したよ。金さえあれば優勝も手にできるというのなら、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシーはどうなんだい?」
グアルディオラはあと数日でミュンヘンを去ることになる。すでにバイエルンは16-17シーズンに向けて動き出している。マッツ・フンメルスに加え、グアルディオラが「ヨーロッパでベストの若手のひとり」と絶賛するレナト・サンチェスの獲得が決定済みだ。
興味は「カルロ・アンチェロッティ新監督がどのようなチームを作るのか」に移りつつあるが、その前にシーズン最後のタイトルを懸けた重要な戦いが待っている。5月21日に開催されるDFBカップ決勝だ。相手は、宿敵ドルトムント。二強が激突するこの一戦を、ドイツ中のサッカーファンが心待ちにしている。
「最後に二冠を達成して、監督とお別れできたらいいね」
バイエルンの主将フィリップ・ラームはそう意気込みを語る。どういう結末になるにせよ、素晴らしいゲームになるのは間違いないだろう。
文:中野吉之伴
【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19(U-19の国内リーグ3部)でヘッドコーチを務める。77年7月27日生まれ、秋田県出身。