そんな移籍間もない当時だった。博多で食事をした時に、知人が僕に言った。
「我々にもプロはいる」
　サラリーマンにもプロはいる、と。
 
「サッカーも我々も同じだよ！ やっさん」と言ってくれたのだ。共に戦う、同じ志を持つ仲間にそう言われたことが嬉しかったのを覚えている。
 
　その方は大きな広告代理店の支社長であり、部下の話をしっかり吸い上げる人であった。よく言っていたのはお酒の席で少し酔い、勢い付くといろんなことを言ってくる。部下の話である。
「よし！ 分かった。明朝、会社で同じことを言いに来い」とメモしておく。来る子はなかなかいないんだよね……と言っていた。懐かしい17年前の話だ。今はそのような場所さえも少なくなっているのでは……。
 
　ただ、「嫌われ者」になれば良いのではない。
「自分のことしか考えていない」
「立場を守ることしか考えてない」
「上に媚びて下に強さを示す」
　そしていつも自分を正当化し、責任を取らない。
 
　こんな嫌われ者は必要ない。こんな嫌われ者になってはいけない。これでは、嫌われ者ではなく、単なるチームスポーツには必要のない人間だ。
 
　こういったことは育成年代の指導者が選手に躾け、教えていかなくてはいけない。それがあれば大人になっても大丈夫だ。
 
　脱いだ靴を揃えるのも、脱いだ服を畳むのも、食べた後に食器を片付けるのも、洗濯物を裏返したままにしないで表にして出すのも、みんなサッカーの話なのである。
 
　指導者が教育、躾けをしなければ、サッカーは上手いが人を思いやれない自分のことしか考えていない選手が育ってしまう。それはサッカーだけでなく、どのスポーツでもそうであろう。
 
　バスケでも野球でもバトミントンでも同じだ。人として大事なものとはなんなのか？　してはいけいけないことと良いこととは？
 
　純粋な氣持ち。人を思いやる氣持ち。
 
　自分自身は思いやってもらいたいが、人を思いやることはできない。人の氣持ちは分からない。そんな自分のことしか考えていないリーダーと指導者からは人を思いやれる選手は生まれない。
 
　今は「プロ」「プロサッカー選手」が存在する時代だ。
 
　上手い子には何も言えず待遇だけが良くなっていく。下手な子は怒れても、上手い子には怒れない指導者。もっと選手の心を育てる指導者が増えなければ、危険な未来になってしまう。
 
　指導者が情熱的に真剣に子どもたちに、その周囲に接することが難しくなっている時代だからこそ、勇気を出して本当の「嫌われ者」にならなくては……。
 
　そんなことを暖かくなり、広大な立山連峰の雪溶けを心配して眺めながら、強く富山で感じた。
 
　J３前期の５節ホームゲームが延期となった。 強く危険な風が吹き止まず事故を防ぐための判断であったと思う。そんな日にもスタジアムに早くから集まってくれたファン、サポーター。そして前日から中止の知らせが出るまで会場の造設、準備に携わった人たちに感謝している。
 
　僕は前を見て走り続けることしかできない。
 
2016月４月19日
三浦泰年