一方のムシアラはヘッドダウンしている分、視野が狭いかと言うと、決してそうではない狭いスペースでもスルスルと抜けていくし、ディフェンダーが２～３人プレッシャーに来ても、構わず回避していきます。１人目の相手と対峙している時、２人目、３人目が飛び込んでくるのを予測しているんですよね。最初に言った身体操作の上手さや、タッチの細かさが際立っています。感覚的にかわしている部分もあると思いますね。生まれ持ったセンスが違いますよ。

　とくに印象に残っている試合は、昨シーズンのヴォルフスブルク戦（ブンデスリーガ19節）です。ドリブルから終始チャンスを演出していましたが、圧巻だったのが得点シーン。敵陣右サイドのタッチライン際でボールを受けると、そこから中央に切り込んでいって、ひとりで５人をかわして決め切りました。ムシアラのドリブラーとしての凄みが凝縮された、象徴的なプレーだと思います。

 

　ムシアラは非常に万能型のドリブラーです。タイトな局面でもオープンスペースでも仕掛けられる。中盤でプレスを回避するボール運びも秀逸です。加えて決してドリブルだけに留まらない。オフ・ザ・ボールの動きも質が高く、ワンツーを使って味方とうまく連携し、チャンスを作り出すシーンが多く見られます。

　だからこそディフェンダーは選択肢をひとつに絞れない。そういった部分も、ドリブラーとしての強みのひとつではないでしょうか。すでにバイエルン・ミュンヘンで不可欠な存在になっていますが、別のクラブでどんなプレーをするのか、今後見てみたい気持ちもありますね。

［プロフィール］
林陵平（解説者／元東京Ｖ、柏など）
186cm・80kgの大型ストライカーとして鳴らした元Ｊリーガー。ヴェルディ・アカデミーと明治大学を経て2009年に東京ヴェルディとプロ契約し、翌年から柏、山形、水戸、ヴェルディ、町田、群馬を渡り歩き、2020年シーズンをもって現役引退した。Ｊリーグ通算成績は300試合・67得点。自他ともに認める「欧州サッカーマニア」で、海外選手のゴールセレブレーションを取り入れて話題にもなった。現在もあらゆる動画やニュースに目を配り、Ｘ（＠Ryohei_h11）では海外ネタを日々つぶやき中。21年１月には、自身初の著書『Ｊリーガーが海外サッカーのヤバイ話を教えます』（飛鳥新社）を出版。23年までは東京大学ア式蹴球部の監督を務めた。最近は欧州サッカーの解説者としても人気を博す。1986年９月８日生まれ、東京都出身。

取材・文●尾池史也（ワールドサッカーダイジェスト編集部）

※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年10月19日号から転載・加筆。

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