若くしてプロデビューを飾ったヴィルツはすでにレバークーゼンで90試合以上の公式戦に出場し、49得点に絡む活躍を見せている。フリックは以前こんな風に評価していた。

「フロリアンが加わることで我々はさらにいいチームとなる。彼がいることで、私もさらにいい監督となれる」

　レバークーゼンのシャビ・アロンソ監督はメッシと比較していた。

「どれほどの難しいプレーでもごく自然体で難なくプレーしてしまう。難しいプレーをしようとすることはなく、その時々に求められるプレーを瞬時に把握して、それを極めて滑らかに実践できる。あのクオリティはメッシを思い出させるよ」

　レバークーゼンのホームスタジアムでヴィルツがボールを持つと、ファンからの歓声が何倍にもなる。そして観衆がイメージする以上のプレーで何度もチャンスを作り出していく。代表週間後のシャルケ戦ではペナルティエリア内で必死に守ろうとする相手DFをものともせず、スルスルと抜け出して柔らかいシュートを決めた。どうやったら止められるのか。相手チームを絶望の底に陥れる。

　実は父親のハンス＝ヨアヒム・ヴィルツもサッカーの監督だ。指導者をしていると我が子にもあれこれ言いたくなったりすることもあるかもしれないが、この親子に関してはそんなことは全くなかったという。

「『もっとこうしたほうがいい』というのを父親が僕にいうのはもうだいぶ昔からなくなっている。幼稚園児くらい小さなころはちょっとあったけど。いまは僕のプレーを見るのを楽しみにしてくれている」

　子どものやることにあれこれ過剰介入しないことは、子どもの成長にとってとても大事な要素だ。ケルンU－17から移籍をするときにも、シャルケやドルトムントからもオファーはあったという。だが、学校を転校するのをよしと思わなかった両親の以降もあり、家から通える範囲内にあるという理由もあって、レバークーゼンを選んだそうだ。サッカーだけではなく、学業も優秀で、大学入学資格に当たるアビトゥーア(８－９年制進学校ギムナジウムの卒業試験)をしっかりと合格している。全てはつながっているのだ。
 

　夏にはジョージアとルーマニアでU－21欧州選手権が開催される。年齢的にヴィルツは出場可能だが、フリックは同い年のムシアラとともに帯同させない意向を示している。

「フローはその年齢において、国内でもインターナショナルにも数多くの試合経験を積んでいる。すでにそこ（U-21欧州選手権）での成長を必要とはしないレベルの選手だ。そのため、今夏はフル代表としてプランしている」

　ムシアラはすでにバイエルンでもドイツ代表でも中軸の存在となっている。CF起用が多かったハベルツはなかなか代表で自身のパフォーマンスを披露できなかったが、新しいポジションで起用されたベル―戦では彼らしいプレーが数多くみられ、今後への期待が膨らんできている。

　そしてここに、試合を重ねるごとに調子を取り戻しているヴィルツが代表でも存在感を発揮するようになったら――。交代での起用だったり、相手に応じた配置だったり。ひょっとしたら３選手同時だったり。そんなことを考えると楽しみが止まらない。ドイツのこれからは明るいと思わせてくれる逸材たちであるのは間違いない。

文●中野吉之伴

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