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【柏番記者|追悼コラム】居残り練習に明け暮れていた工藤壮人。努力でエースの称号を勝ち取っても、“最高の第一印象”を見せた16年前から人間性は変わらなかった

カテゴリ:Jリーグ

鈴木潤

2022年10月26日

きっと大勢の人から愛されていたと思う

主将の大谷秀和(写真左)と工藤壮人さん(写真右)。仲間から愛される人間性があった。(C)SOCCER DIGEST

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 プロ2年目のグアムキャンプでは紅白戦のメンバーにも入れず、「悔しいです」と心情を漏らした。その想いを布部陽功コーチにぶつけ、居残り練習を志願した。柏に戻ると、全体練習終了後には必ず布部コーチとの居残り練習に明け暮れる工藤の姿があった。

 自分の立ち位置を変えるためには誰よりも努力をして、チャンスが訪れたときに結果で示すしかない。そのギラギラとした感情が彼の身体中から溢れ出ていた。

 2010年3月21日、J2リーグ3節の福岡戦。努力を積み上げてきた工藤に、そのシーズンで初めてのチャンスが訪れた。まるで獲物を捕らえた野獣の如く、彼はそのチャンスを逃さなかった。81分、相手のバックパスを奪った工藤は0−0の均衡を破る値千金の決勝弾を決めた。のちに「自分の人生を変えたゴール」と彼自身が位置付けたとおり、この福岡戦の得点を機に出場機会を増やし、コンスタントに得点を決めていくことになる。

 U-15時代、世界大会のメンバーから外された悔しさをバネに、自らの手でエースの称号を勝ち取った時と同じように、トップチームでも自分の手で主力の座を掴み取った。その背景にたゆまぬ努力があるのは言うまでもない。
 

2013年のリーグカップ優勝後、サポーターと写真に写る工藤壮人さんは、柏というクラブに大きな功績を残した。(C)SOCCER DIGEST

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 時には大胆な発言でメディアを驚かせることもあった。ビッグマウスやリップサービスというよりは、あえて大きな目標を言葉にすることで、自分自身にプレッシャーをかけているようにも思えた。

 例えば2011年J1リーグ28節の前日練習にて。1995年のJリーグ参入以降、柏がリーグ戦では一度も勝てていない“鬼門”のカシマスタジアムでの試合を前に「僕がゴールを決めて、カシマスタジアム未勝利の歴史を終わらせます」と豪語した。翌日、柏は初めてカシマスタジアムで鹿島を下した。工藤の決勝点だった。

 2013年11月1日、ヤマザキナビスコカップ決勝の前日練習では、大勢のメディアに囲まれた中で、「大舞台で結果を残してこそレイソルの9番なんです。明日は僕が決めて、チームを優勝させます」と明言した。翌日の決勝戦、浦和に押し込まれる苦しい展開を強いられながらも、工藤は前半アディショナルタイムに決めた渾身のヘディングシュートで優勝を手繰り寄せた。

 J1リーグ通算56得点は柏のクラブ最多記録。また、カップ戦を含め柏で出場した全公式戦では92得点を記録した。工藤が得点を決めた試合は56勝11分8敗、非常に高い勝率を誇った。

 練習から努力を惜しまず、試合では誰よりも結果にこだわった。多くの得点でチームに勝利をもたらし、柏というクラブに大きな功績を残した。敬愛する先輩・北嶋秀朗が付けていた背番号9を継承し、エースと呼ばれる存在になっても、ピッチ外の振る舞いや人間性は、彼と初めて会話を交わした16年前の“最高の第一印象”から何も変わらなかった。そんな工藤のことだ、広島、山口、宮崎、バンクーバーやブリスベンでも、きっと大勢の人から愛されていたと思う。

 アカデミー時代から見てきた思い入れの強い選手のひとり。本来はこうした形ではなく、顔を合わせ、笑いながら昔話に花を咲かせたかった。

 ご冥福をお祈りいたします。そして、どうもありがとう。

(文中敬称略)

取材・文●鈴木 潤(フリーライター)
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