連載|熊崎敬 【蹴球日本を考える】人間国宝のごとく――中村俊輔のリズムの創り方

カテゴリ:Jリーグ

熊崎敬

2015年09月27日

サッカーとはリズムの奪い合いであり、壊し合いでもある。

全てのプレーに意図がある中村だが、その全ての所作に趣が感じられる。 写真:サッカーダイジェスト写真部

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 49分、横浜は敵陣左サイドでFKを獲得した。もちろんキッカーは中村。この時の彼の振る舞いを書き出すと、こうなる。
 
一、ゆっくりと歩いてポイントに向かう。
二、左手でボールをつかみ上げ、両手で回転させてからボールをセットする。
三、置いたボールを何度か置き直す。
四、上がったソックスを一度下ろして、もう一度上げる。
五、ボール周りの足場を、念入りにスパイクで踏み固める。
六、ゆっくりと下がり、ゴール前を眺める。
七、蹴る。
 
 こうした手順にはバリエーションが無数にあり、目の前に立っている敵にポコンとボールを当ててみたり、足下のボールをさりげなく蹴るふりをして、近くに置かれたドリンクを拾い上げて口に含むというのもある。もちろん、近場の味方に何事か耳打ちするというのも――。
 
 中村がもったいぶってセットプレーを蹴るのは、そうすることで息を整え、集中力を高めたいからだ。リードしていれば、これで時計の針を大きく進めて、敵を苛立たせることもできる。
 
「早く蹴りなさい」と注意できる審判も、そうはいない。中村はレジェンドという地位を巧みに利用して、時間を支配しながらゲームを動かしているのだ。
 
 人には、それぞれ心地良くいられるリズムがあり、選手にも、そしてチームにも好ましいリズムというものがある。サッカーという競技は、そんなリズムの奪い合いであり、壊し合いと言ってもいい。
 
 Jリーグには、頑張る選手はいくらでもいる。だが、知性や技術をフル回転させて、リズムを創り出す選手はなかなかいない。その数少ないひとりが中村俊輔。あのもったいぶったリズムは、さながら人間国宝の芸を見るかのようだ。
 
取材・文:熊崎 敬
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